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「新年の誓い」を最速で破った僕は心を鍛えるべきなのかもしれない

ひたすらに会話が続かず気まずい雰囲気に……

  しかし大人しそうなインストラクターの反応は意外なものだった。 「まあ、サウナは熱いですよね……汗でちゃう……つぎ行きましょう」  ぜんぜん会話が盛り上がらない。  うどんって麺類ですよね、みたいな当たり前のことを言われてもそこからどう会話を発展していっていいのか分からない。  そしていよいよジムの心臓部、トレーニングルームへ。  「これがランニングマシンです……」  明らかにトーンが低いインストラクターのテンションがうつってしまい、僕までトーンが低くなっていた。 「そうですか……」  そのまま無言でランニングマシンを見つめる二人。ほかの人から見たらなにやってんだこいつらって状態だったと思う。  さすがにトーンの低いインストラクターもこのままじゃまずいと思ったのか、絞り出すように会話を展開させた。 「ここにですね画面がついていますよね、ここでテレビをみることができます。走りながら……テレビを……見ることができます……」  言いながら、テレビが見られるからなんなんだと自分でも思い始めたようでどんどん声が小さくなっていた。  

さすがにヤバいと思ったのか、頑張りを見せてきたインストラクター

「それだけじゃなく、Youtubeも……見ることが……できます……」  走りながらYotubeみてどうするんだと自分でも思い始めたようで、最後のほうは消え入りそうな声になっていた。  ただ、インストラクターもなんとか会話を発展させたいと思ったのか、なぜかYoutube動画を引っ張り続けて会話を展開させてきた。 「普段、どんなYoutube動画を見ますか?」  たぶんだけど、彼は本当に口下手なんだと思う。会話を展開させるのが苦手なんだと思う。色黒の口八丁手八丁のインストラクターに比べて圧倒的に苦手なのだろう。それでもなんとかしなきゃいけないという彼なりの決意とか頑張りみたいなものを感じた。  「そうですね、歯医者さんの動画で、歯石を取る動画とか見ますよ。ボロッととれて気持ちいいんですよ」  ここから会話が展開し、へえ歯石ですか、ええ気持ちいんですよ見てるだけで気持ちい、僕はやはり筋トレとかエクササイズの動画を見ちゃうなーインストラクターですしね、ああいうのって商売敵になったりしないんですかね動画だけ見て満足しちゃってジムに入らないとか、そうでもないですよ動画を見て簡単なのやりはじめたら本格的にマシン使ってやりたくなったとかありますし、なるほどそういや僕も歯石とる動画みてたら歯医者でとってもらいたくなるもんな、こんど歯石の動画をみてみます、じゃあ僕も筋トレの動画を見ますそれで満足してジムに入会しないかも、それは困りますよ、ワハハハハハ。こんな展開を期待したのです。 「歯石って石なんですかね……石じゃないですよね……石なのかな……」  ぜんぜん会話が展開しねえ。
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僕もジョークを飛ばして場をなごませようとしたのだが……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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