“暗黒の20代”を過ごした俳優・佐藤二朗「52歳でも知らないことが山ほどある」
インパクトの強いコメディテイストの作品だけでなく、最近は監督も務めた映画『はるヲうるひと』や主演ドラマ『ひきこもり先生』などでの印象も残る俳優・佐藤二朗(52)。最新主演作『さがす』では、中学生のひとり娘(伊東蒼)に、「指名手配中の連続殺人犯を目撃した」と話した翌日に、突然姿を消す中年男・智を演じている。
――本作で組まれた片山監督のことは20年前からご存じだったとか。
佐藤二朗(以下、佐藤):『アイノウタ』(02)というBS-TBSのドラマに準レギュラーのような感じで出演していたときに、右も左も本当に分かっていない、人というよりは、ほぼ猿のような使い走りがいたんです。それが片山慎三でして。でも喋ったときの返しとか、言葉の感性なんかが面白くて、「お前、面白いな」と声をかけていた記憶はありました。そこから何年もして、『岬の兄妹』(19)という、監督が自腹で撮ったすごい映画があると聞いて観ました。「へぇ、これを片山監督って人が撮ったのか」とは思いましたが、猿の片山と『岬の兄妹』の片山監督が同一人物だとは思っていなかったんです。
――そうだったんですね。
佐藤:そのあと何の前触れもなく、長文の手紙が来ました。そこに『岬の兄妹』のDVDと『さがす』の台本も入ってたんです。そして手紙に、あのときお世話になった片山ですと。『岬の兄妹』を撮って、商業デビュー作品になる次の作品の主演を、ぜひ二朗さんにやってほしい。台本もアテガキしましたと。それで読んだらものすごく面白かったし、主人公の智という、過酷な状況に追い込まれる、何の変哲もない中年男の役をなんとしてもやりたいと思いました。
――佐藤さんご自身も『memo』『はるヲうるひと』で監督をされていますが、実際に片山監督と組んでみて驚きなどはありましたか?
佐藤:確かに僕も監督をしていて、長編2本というのは一緒ですが、俳優をやるときには自分が監督もやっていることは、全部忘れて別の筋肉でやっています。だから僕が監督だからというワケではなく、イチ役者としてになりますが、スゴイと思いましたよ。片山はポン・ジュノ監督を始めとしたいろんな監督の助監督をやってきていまして、「日本はテイクを重ねなさすぎる」って言うんです。たとえばポン・ジュノ監督は、おばあちゃんが泣き叫ぶシーンを40テイクやったと。
――うわ、すごいですね。
佐藤:「さすがにそれは僕もやり過ぎだと思いましたけど」と言ってましたが、まあ要するに日本でテイクを重ねられない理由の多くは時間がないから。時間がない理由の多くは予算がないから。だから撮影期間が取れない。そうした制約があるから、何テイクも試すことができないんです。でも片山は自分がやるときには、じっくりやりたいと。で、実際に期間を長くしたんです。撮影期間2ヶ月以上でした。
監督を務めたのは、みずから出資して作り上げた長編デビュー作『岬の兄妹』で高く評価された片山慎三。かつてドラマ現場で出会っていたという片山監督とのエピソードや、「テイクを重ねられない」日本映画の現状について聞くとともに、一時はコメディ演技のイメージが強かった佐藤に「俳優に特定のイメージが付くこと」への思いを直撃した。
かつて面白い猿だと思っていた相手からオファーの手紙が
テイクを重ねられない日本映画の現状
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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