仕事

「上司が有能とは限らない」急成長ベンチャーを支える合理的な上下関係

組織で働く多くの会社員は、「上司が言うから正しいだろう」「上司が言うのだからそうしよう」と、ついつい上司に忖度をしがちになってしまう。  しかし、当然ながらその上司の判断が常に正しいとは限らない。「変化が激しい現代は、上司が部下よりも有能だと決めつけるのはむしろキケンです」と話すのは、ビズリーチ、メルカリ、スマートニュースという急成長ベンチャーを渡り歩いてきた森山大朗氏だ。  国内屈指の急成長ベンチャーで働くなかで知った「働き方の新常識」やキャリアアップの秘訣を、著書『Work in Tech!ユニコーン企業への招待』で明かしている森山氏。メルカリなど急成長する会社のなかではどのような意思決定がなされているのか。その内部事情を紹介してもらう。

森山大朗氏。SNSでは「たいろー」名義で転職やキャリアの情報を発信している

■上司ドリブンより「データドリブン」で動く

 ユニコーン企業における意思決定は、上役にお伺いを立てる「上司ドリブン」ではなく「データドリブン」です。  僕もテック系企業で働く前は「上司は部下より有能であり、正解を知っているはず」という前提で考えていましたが、これは間違いでした。モノを作れば売れた高度経済成長期ならいざ知らず、そもそもインターネットとスマホ全盛の現代において、上司が部下より有能という前提で物事を進めるのは危険なのです。  変化のスピードが速いと、ヒットした新商品や新機能、効果の良い広告手法にいたるまで、以前なら成果を出せていた方法が急速にコモディティ化、つまり陳腐化します。  こういう事業環境下での上司の役割は「部下より有能なこと」ではありません。環境が変化してしまう時代に、意思決定の指針を与えてくれるのは「過去の成功体験」ではなく「データ」です。

これまで3つのユニコーン企業を渡り歩いてきた

 今の時代にインターネットサービスやアプリを運営していれば、どこの企業でもサービス改善において「ランダム化比較実験(RCT:Randomized Controlled Trial)」、通称「ABテスト」を採用しています。  元々は医療分野で客観的な治験評価をするために用いられてきた実験手法で、実験結果についての根拠の蓋然性(確率や公算、正しさの度合い)が高い方法だとされてきました。 それが後に、Google、Apple、Meta(旧Facebook)、AmazonやMicrosoftといった巨大テック企業がサービス改善に取り入れて標準化したことで、今ではほかの新興テック企業でも数十~数百のABテストを並行して走らせ、サービス改善の仮説検証に用いるようになっています。  テック企業の開発現場では、このようにデータをもとにした意思決定を繰り返してプロダクトの改善を、日々続けているのです。 この改善プロセスにおいて、データ自体に人間の意思が介在する余地などありません。上司が「自分が以前提案して成功したのはアルゴリズムAだから、Aにしておけ」なんてことは起きようがないのです。 こうした施策が続けば、上司への忖度を基準にして仕事を進める「上司ドリブン」な企業とは改善スピードで圧倒的な差が出て当然です。

■反対に「上司の意思」が必要な時とは?

 とはいえ、データには「量」も必要です。  ABテストが示しているのはあくまで「確率」なので、大量のデータを保有している企業ほどデータから導き出せる根拠の蓋然性が高く、意思決定が洗練されたものになります。 つまり、プロダクト(製品)が大量のユーザーを集める前のフェーズでは、データドリブンな意思決定は不可能なのです。常にデータを用いた判断が可能なわけではなく、むしろそういった基盤が整っていない企業のほうが多いかもしれません。  そうなると、特にサービスが成長する前の初期フェーズにおいては、データが取れないなかでも魅力的なプロダクトを構想できたり、経験から仮説を立てられる有能な上司は、以前にも増して重要な存在になれると言えます。 これは、新たな時代の役割分担です。 大量のデータの中から一定の答えを導き出せる領域に関しては「データドリブン」で。データが存在しないなかで仮説を立てて進まなければならない局面では、その領域に精通した人間が「上司ドリブン」で意思決定をリードしていく。それが、これからの時代の「テクノロジーとの共存の道」なのだと思います。 <構成/秋山純一郎>
早稲田大学卒業後、リクルートや新規サービスの立ち上げを経て2013年に株式会社ビズリーチに入社し、求人検索エンジンの開発を担当。2016年から株式会社メルカリでJP/USの検索アルゴリズム改善やAI出品機能を開発しHead of Data/AI/Searchとしてエンジニア組織を統括。2020年からスマートニュース株式会社でテクニカルプロダクトマネージャーとしてダイナミック広告の開発をリードしつつ、メルカリShopsを開発・運営する株式会社ソウゾウを支援。SNSでは「たいろー」名義でテック業界の動向や転職、キャリアに関する自身の考え方を発信し、人気アカウントになっている。初の著書『Work in Tech!ユニコーン企業への招待』が発売中。Twitter/@tairo、Voicy/「ユニコーン転職ラジオ

Work in Tech!ユニコーン企業への招待

テクノロジーに殺されない、働き方&キャリア実践論


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