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自分探しは“無理ゲー”。「やりたいこと」を探してはいけない理由とは?

「やりたいことが見つからない」「自分が本当に得意なことは何か?」と、悩む人は多い。自己分析にまつわるコンテンツやビジネス書がヒットするのも、“自分探し”をしたいと思う人が多い証拠だろう。

終わらない「自分探し」で悩みのループに入ってしまう人も…

 しかし、「自分探しは“無理ゲー”です」と話すのは、SNSを中心にキャリアや転職に関する情報を発信する森山大朗氏だ。28歳時にはフリーターだった彼だが、その後、テックベンチャーへの転職を繰り返し、現在はスマートニュースで要職についている。  その独自のキャリア観が人気を呼び、SNSでも転職相談などを多く受けている森山氏。今月には初の著書『Work in Tech!ユニコーン企業への招待』を上梓した。  そんな森山氏のキャリア感の根底にあるのは、「自分という存在は、探すのではなくつくらなくてはいけない」との思いだという。その真意とは?

■「自分探し」というパラドックスの正体

 僕は現在、ユニコーン企業と呼ばれる急成長企業でプロダクト開発に携わりながら、SNSや音声メディア、書籍を通じて発信する機会に恵まれています。ただ今思えば、それはあの悪名高き「自分探し」という”無理ゲー”をやめたのがすべての始まりだと思います。  僕にも必死になって自分探しをしていた頃がありました。就職活動の時期です。「自分は何がやりたいんだろう」「何が得意なんだろう」と毎日のように悩み続け、就活対策本を買っては自己分析シートに記入してみたり、業界地図を買っては眺めてみたり、先輩や友人に突然、自分の強み弱みを聞いてみたり。  当時の僕は、「確固たる自分の軸がどこかにあるはず」で「まだそれを見つけられていないだけ」という前提で、物事を考えていました。それを見つけることさえできれば、「エントリーシートの内容にも具体性が出るはずだし、志望動機も納得感のある内容が書けるはず」と思い込んでいました。  別の言い方をすると、「どこかに正解があるはず」で、「その正解を見つける解法」を求めていたんでしょう。

森山大朗氏。SNSでは「たいろー」名義で転職やキャリアの情報を発信している

 しかし、今だからこそ全体の構造が見えるのですが、そもそもこれは「自分という存在は、探せば探すほど逆にみつからない」というパラドックスになっています。当時の僕はその構造に囚われ、グルグルと同じところを回っては、答えが出ない日々に苦しんでいたのです。  僕は当時、まるで白いキャンバスに点を打つように「やりたいこと」を探そうとして、膨大な可能性のなかで迷子になっていました。  実際に白いキャンバスの上でやりたいことを見つけようとすると、探す範囲が広すぎて「やりたいこと」がどこにあるのかわからないのです。

探す範囲が広すぎて「やりたいこと」が見つからない

 これは広大な砂漠で金を見つけるようなアプローチです。ある領域について「自分に向いてるかも……」と興味を持っては諦め、また自己洗脳するという繰り返しになります。  考えてばかりで行動しないと手掛かりにも欠けるので、不毛な探索行為を繰り返した挙げ句、だんだんと疲れていきます。  そして精神的に弱っていき、早くラクになりたくて就活アドバイザーや適職診断という名の「占いサービス」に、自分がやりたいことを決めてもらうハメになってしまうのです。  最初から正解をピンポイントに探ろうとするから、非常に探索コストが高くなる。探索コストが高すぎて正解がみつからない。  この構造こそが「やりたいことを探すほど、やりたいことが見つからなくなる」というパラドックスの正体です。

■「やりたくないこと」から探したほうが効率的

 ‪では逆に、「まずは内定した企業に就職して頑張ってみる」「目の前の仕事をやりきってみる」という方針で行動すると、どうなるでしょうか?‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬  目の前の仕事をやりきると、結果として「他者からのフィードバック」が手に入り、そこから「得手不得手」「好き嫌い」についての手掛かりが得られます。  もちろん、そこで安易に「苦手」と断定せず、一定の成果が出るまで続けてほしいのですが、自分で感じることで違和感や苦痛の正体が見えてきます。  そして、それによって「やりたくないこと」がわかり、白いキャンバスの一部を塗り潰せるようになります。

「やりたくないこと」から炙りだしていく

 実は、これが最も大事なことです。  こうすることで探索範囲が効果的に狭まり、自分が活かすべき特質や優位性も、徐々に見えてきます。つまり、自分がやりたいことが特定できなかったとしても、逆に「苦手なことや、やりたくないこと」を明確にすることで「あぶり出されてくる」のです。  僕がこういった「やりたくないことを明確にして、むしろやりたいことをあぶり出す」という逆説的アプローチをお薦めするのは、人類が長い歴史のなかで生き延びるために磨いてきた「感性=心のセンサー」の特性を利用したほうが、賢いと信じているからです。  人の感性は、「快」より「不快」、「やりたい」より「やりたくない」に強く反応します。古来より、身の危険を察知できるかが生死を分けたがゆえに発達した能力であり、高度に分業化された現代においても、人類の身体構造は基本的に同じです。  やりたいことが明確でなくても人は生きていけますが、やりたくないことを続ければ心身に不調をきたします。自分にとって不快なことを察知する能力はそれなりに精度が高いのです。

森山氏の著書『Work in Tech!ユニコーン企業への招待』には、これまで7回の転職で培ってきたキャリアアップの秘訣が詰まっている

 もし、あなたが今、「やりたいこと」ばかりに目を向けているのであれば、反対に「やりたくないこと」を考えてみてください。そこから逆に、あなたが本当にやりたいことが見えてくるかもしれませんよ。 <構成/秋山純一郎 撮影/菊竹規>
早稲田大学卒業後、リクルートや新規サービスの立ち上げを経て2013年に株式会社ビズリーチに入社し、求人検索エンジンの開発を担当。2016年から株式会社メルカリでJP/USの検索アルゴリズム改善やAI出品機能を開発しHead of Data/AI/Searchとしてエンジニア組織を統括。2020年からスマートニュース株式会社でテクニカルプロダクトマネージャーとしてダイナミック広告の開発をリードしつつ、メルカリShopsを開発・運営する株式会社ソウゾウを支援。SNSでは「たいろー」名義でテック業界の動向や転職、キャリアに関する自身の考え方を発信し、人気アカウントになっている。初の著書『Work in Tech!ユニコーン企業への招待』が発売中。Twitter/@tairo、Voicy/「ユニコーン転職ラジオ

Work in Tech!ユニコーン企業への招待

テクノロジーに殺されない、働き方&キャリア実践論


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