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伝説の「1秒で止まるシャワーのある温泉」を求めて、無意味な旅に出た結果

ossan2-2【おっさんは二度死ぬ 2nd season】

旅の目的地とはなんであるべきだろうか

 旅の目的地とはなんであるべきだろうか。  多くの旅は目的地を設定して実行される。普通に考えると有名な観光地や景勝地、世界遺産、心休まる温泉宿、そんなところが目的地になりうるかもしれない。僕の周りのおっさんはその目的地が「風の噂で聞いた優良サウナ」だったり「過激でコスパ最高と風の噂で聞いた優良風俗」だったりするけど、やはりそこにはその人にとってそれなりの理由を持った目的地が存在する。  よくよく考えると旅とはけっこう億劫なものだ。事前にチケットを手配したり旅程を調べたり、宿の手配だってするし、荷物をあれこれ考えてカバンに詰めたりする。いざ旅行が始まっても、待ち時間が長かったり、乗り換えが地獄だったり、信じられない段数の階段をのぼったり、とんでもないトラブルに見舞われることもある。そういった多くの障壁を乗り越えて実現するのが「旅」だ。その目的地はその人にとってそれなりであることが望ましい。  けれども、その目的地がめちゃくちゃにしょぼかったらどうだろうか。かなり前の話になるのだけどそんな考えのもと、本当に目的地がしょぼい旅をしたことがある。 巨根橋 これは鳥取県の山中にある巨根橋(おおねばし)だ。僕の故郷に近いということもあって何度も訪れている場所なのだけど、最初に行ったときは「巨根な橋がある」という風の噂を聞きつけていったものだった。

無駄な行動をしている自分を楽しむ旅というものもある

 はっきり言ってしまうと、やはり旅の目的地としてしょぼい。名前がトリッキーなだけで、すぐ近くにダムがあるだけの山中に佇む普通の橋だ。付近に男性器を模した巨大な石像があり、一年に一回の祭りでは近隣県の神社に祭られている女性器を模した木像とのダイナミックな結合がみられ、祭りの盛り上がりはクライマックスを迎える、最後に五穀豊穣を願って巨根の舞を地元青年団が披露する――ということはない、普通の橋だ。  ただ、名称が「巨根だね、大きな男性器だね」という小学生でも喜ばないレベルのものというだけ。それでも、このしょぼい目的地に向かう「旅」をする僕はずいぶんとワクワクしたのを覚えている。  人は時に無為で無駄な行動に心を弾ませることがある。  「うちらってこんな無駄なことしてばかじゃん」  「いえてるギャハハハハハハ」  みたいなギャルの心理に近い。無駄なことをしている自分に何とも言えぬ喜びを感じるのだ。  それは絶対に倒壊しない強固な建物の中で暴風雨を眺めたり、暖かい部屋の中で大雪のニュースを眺めたり、趣味の悪い金持ちたちが鉄骨渡りをする若者たちを眺める心情に近いのかもしれない。「安全であるが故の愉悦」というやつだ。そんな無駄なことをしちゃう余裕のある自分を再確認するのだ。  それでも、やはり目的地はしょぼいので、ここに到達しても「ああ、巨根だね」くらいで終わってしまう。そうしてまた「帰りの行程」という「旅」に舞い戻っていくのだ。  そんな、目的地がしょぼく、あまり意味のない「旅」を長らくしてこなかったが、新型コロナが大流行するちょっと前、本当に久しぶりに目的地がしょぼい旅をしてきたことがある。
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とある温泉の、「1秒で止まってしまうシャワー」を探しに出た
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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