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伝説の「1秒で止まるシャワーのある温泉」を求めて、無意味な旅に出た結果

「ここの施設はケチすぎる」と憤慨する爺さん

「遠くから来たんか」 「ええ」  やはり地域の憩いの場のような雰囲気があるのでよそ者が来るとすぐにわかるらしい。   「なんでまたこんな場所に」 「いい温泉があるって評判を聞きつけたもので」  まさか1秒で止まるシャワーを求めてきたと言えるわけもなく、温泉が評判などととってつけた目的を話していた。 「そうだよ、そうなんだよ。ここは温泉が最高なんだよ」  僕の言葉に爺さんはご満悦な様子。満面の笑顔を見せていたのだけど突如として豹変して怒りの表情を見せた。 「でもな、施設は最悪だぞ! ケチなんだ! 靴箱みたろ、普通は無料だぞ! なのに10円も取りやがる! ケチ! 脱衣所のロッカーだって10円だ! ケチすぎる! ケチ!」  ケチと連呼する爺さんに僕の胸は高鳴った。それだけ評判のケチ施設となると節水意識がいきすぎて時間止め水栓の設定をかなり短くしている可能性が高い。さすがに1秒はありえないとしてもけっこうな短時間であることが窺える。 「そんなにケチですか」 「ケチもケチよ、このあいだは入浴料を値上げした。備え付けのリンスインシャンプーも質が悪いものに変わった。あと自動販売機がコカ・コーラのヤツから見たことないメーカーのヤツに変わった」  最後のやつはケチなのかなんなのかわからないけど、次々とケチエピソードが繰り出されてきた。いつまでも喋り続けていそうな勢いだ。いよいよシャワーが短い可能性が高まってきた。ワクワクしながら入浴料を払い、脱衣所へと向かう。

10円を惜しんで鍵をかけない地域住民

 開いているロッカーを開ける。服が入っていた。またか。  ロッカーも同じように投入したコインが返ってこないタイプの有料ロッカーなので地域住民は鍵をかけずに服を放り込んでいる。本当にどこを開けても地域の爺さんのパンツとかが入っている。なんだよこれマナー悪すぎるだろ。  爺さんは施設がケチすぎるって憤っていたけど、10円を惜しんで鍵をかけない地域住民も十分にケチだ。こっちはどこが空いているのか分からなくて片っ端からロッカー開けていく羽目になる。そのたびに爺さんのブリーフを目撃することになる。なんなんだよ本当に。なんでみんな白のブリーフなんだ。
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果たして、シャワーは本当に1秒で止まってしまったのか
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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