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「俺の脊髄をなんだと思ってるんだ」人は痛みを経て、一つずつ賢くなっていく

おっさんは二度死ぬロゴ_確認用【おっさんは二度死ぬ 2nd season】

あの日みた側溝の蓋の名前を僕達はまだ知らない

 唐突の質問になってしまって申し訳ないが、みなさんはこれの名称をご存じだろうか。  側溝などにはめ込まれている金属製の蓋だ。雨水などが入れるように格子状になっている。恥ずかしながら僕はこの蓋の正式名称を知らなかったのだけど、どうやらこれは「グレーチング」というものらしい。  知らなかった僕がそう主張しても滑稽でしかないのだけど、グレーチング、あまり一般的な名称ではないように思う。これまでの人生で「グレーチング」という言葉を聞いたことはないし、この物体をグレーチングと説明している人も見たことがない。まさしく人生においてはじめて出てきた単語だ。  これらを専門的に扱う業者や、道路整備などを仕事にしている人、はたまた近所でも物知り博士として評判の御仁、歴戦のクイズ王などなど知っていて当たり前の名称かもしれないが、やはり一般的な名称ではないように思う。  ここで問題となるのが、グレーチングを知っていたかどうか、ではない。あくまでも重要なのは「人は自分に関りがない限り知ろうとはしない」という点だろう。僕のこれまでの決して短くはない人生において、このグレーチングにまったくもって触れてこなかった。  言い換えると、知らなくとも特に問題なく生きていけるわけだ。知らなかったからめちゃくちゃ恥をかいたとかそういったこともなかったわけだ。そして、これを好奇心から調べ上げて「へえ、グレーチング」っていうんだ、となったわけではない。あくまでも関りができたから調べただけなのだ。

そんな溝にまんまとハマってしまった僕

 あれは良く晴れた朝のことだった。  自転車で通勤している僕は、朝の爽やかな風を一身に受けながらペダルを漕いでいた。見ると、集団登校の小学生がワイワイしながら僕のほうを見ている。たぶん、あの人の自転車かっこいいとかそういう話をしているのだと思う。  はっきり言ってしまうと、僕が通勤に使っている自転車はかっこいい。小学生が憧れるのもわかるというものだ。白いスポーツタイプの自転車で値段もまあまあ高い。小学生じゃ買えないレベルで高い。そりゃ白い自転車、白馬の王子様みたいと憧れるのも無理はない。  ここは一発、さっそうと交差点を曲がってさらにかっこいいところを見せてやりますか、と高級な変速機を操作し、高級なペダルを踏みしめて加速した。そして小学生たちの集団を横切るようにして交差点を左折したその瞬間だった。  そこの交差点には側溝が通っており、そこに金属製で格子状の蓋が直列状に敷き詰められていた。雨の日などはこの蓋の上が滑りやすくなっているので注意を要する交差点なのだけど、今日はピーカンの快晴だ、何も気にすることなく残像だけを残して颯爽と通り抜けたのだ。  ガゴッ!  なんと、この金属製の蓋と蓋の間にできたわずかな隙間に自転車の前輪がすっぽりとはまってしまったのだ。普通の自転車なら問題ない隙間なのだけど、なにせ高級でスポーティーな自転車だ。タイヤもスポーツ性重視で細い。その細いタイヤがずっぽりとはまってしまったのだ。格子の網目ぐらいならはまらないのだけど、蓋同士の隙間は通過できず、おもいっきりはまってしまった。
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行政にクレームの電話をするも、名前がわからず
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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