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詐欺店でコテンパンに搾り取られた風俗好き男性の復讐

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めちゃくちゃ詐欺っぽいデリヘル店

 世の中には信じられないレベルで執念深い人がいる。誰かの執念深さは時に賞賛の対象となる。何か大きなものを成し遂げる際には必ずと言っていいほど執念深さが伴うからだ。スポーツにしても芸術作品にしても大きな成果の裏には極度の執念深さが存在する。  しかしながら、そこに明確な成果が存在するから、その執念すらも成果に内包されて賞賛されるわけだ。では、そこに大きな成果がなかったらどうだろうか。誰からも賞賛されることなき執念深さ、ひとはそれに触れたときに何を思うだろうか。  八王子駅から少し歩いた場所に小さな喫茶店がある。強烈な寒気団が襲った八王子の寒々しさとは別世界といった趣で、店内の暖房は効きすぎるほどに効いていた。ちらほらと舞い散る雪を窓から眺めていると、コロンコロンと跳ねるような音を立てて入口の扉が開き、一陣の冷気が店内を駆け巡り、すぐに熱気へと溶けていった。 「よお! 降ってきたな!」  入ってきた男はこちらの姿を確認すると満面の笑みを見せてそう言った。肩に乗った雪は店内の熱気に触れて瞬時に溶け、水滴に変わっている。 「注意しないとこのまま降り続けたら中央線が停まるかもしれん」  男は向かいのソファに腰掛けながらそう言った。 「中央線だけに注意おうせんとな」  さらに念を押すように言葉を続けた。なんで念を押したのだろうと不可思議な表情で見つめていると男はさらにゆっくりと念を押した。 「中央線だけに、<ちゅうぃおう>せんとな」

面倒なテンションの徳重さんの話をしぶしぶ聞く

 ああ、今日は面倒くさいテンションの日だ。即座に悟った。  彼は我々の仲間内で極度の風俗マニアとして知られる徳重さんだ。この徳重さんは普段はただ風俗に狂っているだけのおっさんなのだけど、ひょんなことからダジャレスイッチが入ってしまうことがある。その日の徳重さんにあたるとまあまあ面倒くさい。 「今日はどうしたんですか?」  ダジャレラビリンスに落とし込まれる前に話題を仕切りなおす。徳重さんが僕を呼び出すときは、新しいタイプの風俗にはまり始めた時だ。ひととおり自分の中に起こった風俗レボリューションを語ってくる。おそらく、「いいじゃないですか」と背中を押して欲しいのだと思う。 「いまさ、デートコースってのにはまってんのよ」 「デートコースですか?」  徳重さんが主に利用する風俗店はデリバリーヘルス、いわゆるデリヘルだ。これは派遣型風俗店と呼ばれるもので、ホームページを見て気に入った女の子を指名すると、ホテルなどにその女の子が派遣されてくるシステムだ。規制により店舗型の風俗店が減少していく中でこの形態の店舗を持たない風俗店は全国で爆発的に増加している。  ただし、そこにはビジネスライクな状態が存在する。ラブホテルなりなんなりの部屋に一人で入って、電話をして女性がやってくるわけだ。サービスが終わると女性は店に電話して帰っていく。 「なんか、いかにも風俗店って感じで寂しいわけよ、もっとそうじゃない何かが欲しいわけよ」  徳重さんは熱弁した。そんなもん風俗店なのだから仕方がないわけだ。風俗店が風俗ライクで何が悪いのかという感じなのだけど、徳重さんはそれ以上の何かを求めていた。 「こうさ、寒くなってくると寂しいわけよ。肉体的に寒いのはもちろんだけど魂も寒いわけよ」  徳重さんのような顧客が多いのか、そういった寂しさを埋めるために最近では「デートコース」なるサービスを提供するデリヘル店が増えている。その名の通り性的サービスだけを提供するものではなく、待ち合わせをして食事にいったり観光地にいったりしてデートを楽しむもので、そのあとに一緒にホテルに行って性的サービスを楽しむというスタイルだ。もちろん、デート部分も料金が発生するわけで、きっちりと数時間のデートを経て性的サービスを受ける場合は6時間から8時間分くらいの料金が発生し、店によっても異なるが6万円から10万円前後の料金になるらしい。
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デートコースに強いこだわりを見せる徳重さん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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