ライフ

詐欺店でコテンパンに搾り取られた風俗好き男性の復讐

動物園の動物の3割は素手で殺しそうな女性がとった、驚きの行動

 間違いなく、写真の修正とかそういったレベルのものではなく、完全に別人だったようだ。やられた、そう思ったそうだ。 「初めまして、リンダです」  おまけにその詐欺はかなり雑で荒く、女性は美咲と名乗らずにリンダと名乗った。完全に別人だ。せめて美咲を名乗ってくれよと少し笑ってしまったそうだ。 「どうします? キャンセルします? まあキャンセル料はプレイ料金の全額ですけど。うちらもう動いてるんで」  リンダはそう主張した。おそらくキャンセル料をせしめるビジネスモデルを有した詐欺だ。なんだかキャンセルしたら負けだと思ったのか、それともそれが風俗好きの矜持だと思ったのか、徳重さんはキャンセルしないと高らかに宣言した。  するとリンダは対抗するように高らかに宣言した。 「ウンコ!」  そういってトイレの個室にこもり、プレイ時間である60分間、出てこなかったようだ。結果、徳重さんが待ちに待った社長秘書美咲とのプレイは、リンダのウンコを60分間待つという、高熱が出たときに見る質の悪い悪夢みたいな状態で終わったようだった。 「それは災難でしたね」  徳重さんが騙された。それだけのことだ。いつもは警戒心が高い徳重さんも、デートコースに惑わされて騙された。それは魂が寒いからだ。ただ、それだけのことだった。けれども、そこからが徳重さんの執念深いところである。 「俺みたいに悲しい思いをするやつを減らさないといけないと思うわけよ」  徳重さんは気が付いた。徳重さんを騙した風俗店、それからしばらくして悪い噂が掲示板などで広まって騙される人も減ったところで閉店し、ホームページも消えた。けれども、まったく別の地方で同じ写真を使って新規オープンしているのを見つけたそうだ。

徳重さんの途方もない執念深さはもっと賞賛されていい

「使われている写真が同じだったわ」  どうやらこの詐欺店、ひととおり騙したら別の地方へと地方巡業をしているらしく、詐欺の全国ツアーを敢行しているらしい。店名こそはコロコロ変わるけど、ホームページの作りと写真、掲載される文言が同じだからすぐわかるらしい。 「あんた、全国の風俗店をチェックしてんですか」 「あたりまえだろ」  軽く言っているけど、それは途方もない作業量であることがわかる。明らかに異常だ。  徳重さんはそういった店を見つけると、すぐにその地方の風俗好きが集まる掲示板に出向き、注意喚起を行っているらしい。この店が詐欺だと断定すると営業妨害になってダメなので、上記のチェックリストを啓蒙して廻っているらしい。 「めちゃくちゃ執念深いですね」 「これはもう俺の呪いよ。呪いを駆使して全国の掲示板と風俗サイトを廻ってあの店と戦っているわけだ。まさに呪術かいせ……」 「ちょっとまってください! それ以上は言わないでください!」  時に執念深さは賞賛される。負けても上手くいかなくても、練習を積み、勝利や金メダルを獲得する。途方もない年月と手間をかけて完成させた作品が評価される。そこではそこに至るまでの執念深さがおおきな構成要素となる。そこには結果があるから執念深さも同時に賞賛される。  けれども、徳重さんの執念深さだって賞賛されてもいいんじゃないだろうか、彼の啓蒙によって、全国の誰かが60分1万6000円を払ってリンダのウンコを60分、待つ、そんな悲劇が生まれることを防いでいるのだ。もっと賞賛されてもいいのかもしれない。 「この雪です。今日はもう電車が停まるかもしれないですね。タクシーでその呪術のように美味い海鮮丼を食べに行きましょうよ、俺が奢りますよ」 「お前とデートコースかよ、やだな」  徳重さんはそう言って笑った。  窓の外に降り積もる雪は、少しだけその勢いを増しているように思えた。 <ロゴ/ヒールちゃん>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3
4
おすすめ記事