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喉が乾いて仕方ない時、水とエロ本どっちを取るか。僕に気づきをくれた男子中学生

真っ暗闇の山中で見つけた、野菜の無人販売所

 汗がだらだらと流れだす。すっかりと酔いも醒めてしまった。それよりなにより喉が渇いて仕方がない。コンビニでも、せめて自動販売機であればと渇望したけど、暗闇へと続く道路はその先々までうっすらと暗く、そんなものは望めないほど圧倒的に黒かった。  喉が渇いた、死ぬ。  そう呟きながらも先に進むしかないので歩いていると、少し先に上ったところにポツンと街灯が見えた。そこだけ異常に明るく、何か間違ってそこに神々が降臨してしまったみたいな神々しさがあった。普通に考えて何もない場所をライトアップしたりはしない。もしかしたらあそこには自動販売機的なものがあるんじゃなかろうか。完全に悲鳴をあげている体に鞭を打ってその灯りへと急いだ。  到達すると、そこは野菜の無人販売所だった。横に備えられた小さな貯金箱に100円を入れて野菜を持ち帰るシステムらしい。完全なる夜間なのでそこに野菜は並べられていなかったが、ハッサクが居心地悪そうにして佇んでいた。ハッサクは柑橘類の王様じゃないだろうかと僕が勝手に認定しているほどの好物だ。こぶりなハッサクが3玉ほど入った袋が申し訳なさそうに佇んでいたのだ。  これは水分になるかもしれない。さっそく購入しようと財布を見ると500円玉しかなかった。無人販売所はオツリが出るシステムではない。買いたいなら500円を入れるしかない。この小ぶりな3玉のハッサクが500円、一瞬だけ躊躇したけれども購入するしかなった。  歩きながら3玉のうちの1玉を手に取り、皮を剝いて食べる。刺激的な柑橘類の香りがわっと闇に拡がり、それと同時に口の中を刺激的な酸味が占拠した。その果汁は確かにあれほど求めていた水分であるのだけど、異様に酸っぱかった。食えば食うほど逆に喉が渇いてしまう異常事態に気が付いたときはもう手遅れだった。  1玉を食べきり、とんでもない失敗をしてしまったと悔みながら歩く。両のポケットには1玉ずつハッサクが入り、異様な膨らみを見せている。それでも先に進むしかないので闇の中を進んでいると、草むらの影に小さな看板があることに気が付いた。それは目立たぬ色合いで、汚れており、伸びきった雑草に覆い隠されるようにして佇んでいたが、確かに看板だった。  こういった山道の看板など、だいたいが謎のマルフクの看板と相場が決まっている。特に期待することなく、その看板に近づいて確認してみた。

ようやく見つけたオアシス……しかし別の意味で

「この先 自動販売機あります」  うそだろ! と叫んでしまった。全く期待していなかったのに、いままさに切望しているものがこの先にあるよと宣言されるのだ。これ以上の興奮があるだろうか。 「この先に自動販売機がある!」  ついについに水分を摂取できるのだ。 「自動販売機 この先」 「自動販売機 すぐそこ」 「自動販売機」  道路わきに掲げられた手書きの看板もどんどんテンションが高くなっている。もうすぐそこに自動販売機がありそうな気配だ。ちょっと先に進んだところに開けている空き地みたいな場所があり、どうやらそこにありそうな感じだった。いよいよ限界を超えていた体に鞭を打ち、最後の力を振り絞ってその空き地へと到達した。 「なんか暗くないか?」  自動販売機とは暗闇であっても煌々と灯りをともしているもので、その灯りに誘われて人々が寄ってくるものだ。それなのにここにはそれがない。あるのは草むらと、薄暗いプレハブ小屋だけだ。 「どこにも自動販売機ないじゃないか」  そう呟きながらプレハブの周囲を歩く。暗くて分からなかったが、よくよく見ると壁には「DVD」と相撲取りみたいなフォントで書かれている。その時点で全てを理解した。 「これ、エロDVDの自動販売機だわ」  エロDVDやエロ本、アダルトグッズなどを専門的に販売する自動販売機だ。地方に行くと国道沿いとかにひっそりと存在しているやつだ。まさかこんなところで遭遇するとは思わなかった。
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とにかく水分が欲しい僕はエロ販売機の中から飲めるものを探した
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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