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パチスロ名機「ニューパルサー」を愛しすぎる、ニューパルおじさんとの邂逅

そこから、ニューパルおじさんの大捜索が始まった

 ただ、僕はこのニューパルおじさんに大きな興味を持った。そこまで一つの何かを愛せることを尊いと思ったからだ。だから、どうしてもこの伝説に終止符を打ちたかったのだ。本当にそんなおじさんが存在するのか。そしてどれだけの伝説が本当なのか、その真贋を確かめたかった。  探すとなると大変だ。同じ市内であるということとニューパル好きということしか分からないのだ。普通なら設置店を絞って探せば効率的なのだけど、前述したようにニューパルは大人気のあまりほぼすべての店に設置されていた。ちょっと下火になってきたといえども、だいたいの店には台数を減らしてでも設置されていた。つまり、市内のすべての店を探す必要があるのだ。これはとてもじゃないが個人の力では無理だった。  パチンコ・スロット好きの友人たちにお願いし、ニューパルおじさん捜索隊みたいなものを結成した。なるべく市内の色々な店で打ってもらい、ニューパルおじさんがいたら連絡して欲しい、飛んでいくから、と伝えたのだ。  1か月くらいは探したと思う。それでもニューパルおじさんは見つからなかった。いくら探しても見つからなかった。そもそもその存在自体がまやかしで、はじめからそんなおじさんは存在しなかったんじゃないか。そう諦めかけたとき、事件は起こった。

パチンコ店での突然の停電に、大声を張り上げるおっさんがいた

 その日は、近づきつつある台風のために風雨が強い日だった。おそらく台風直撃とまではいかなくとも暴風圏には入るだろう、そんな日だった。そんな日に何をしたかというとパチンコを打ちに行ったのだ。パチンコ店のほうがしっかりした構造しているから家にいるより安全じゃないか、そんな言い訳をしながら打ちに行ったけど、まあ、単に暇だったのだと思う。  こんな日にパチンコを打ちに来るやつなんて僕くらいだろうと思っていたら、店内には思った以上に客がいた。むしろ混んでいた。台風以上の熱気が店内に吹き荒れていた。スロットを打とうと思ったけど、めぼしい台が空いていなくてその時はパチンコを打っていた。  その日はあまり調子が良くなく、持ってきたお金も底をつきかけていた。まあ、この球がなくなったら帰ろうか、いやでも今はいちばん風雨が激しい時間帯だ、もうちょっと打ってから帰ろうか、そう思い始めた瞬間だった。  ブツン!  店内が暗闇に包まれた。おそらく台風の影響だろう、照明が消え、台のランプも消え、BGMも消えた。あれだけうるさかった店内を静寂と闇だけが包み込み、外を吹き荒れる風の音だけが獰猛な生物の咆哮のように響いていた。 「ふざけんな! 大当たり中だったんだぞ!」  その静寂は一瞬だけですぐに怒号が飛び交い始めた。 「保証はあるんだろうな!」 「おいおいいくら入れたと思ってんだ。ちゃんと復旧するんだろうな!」 「早く復旧させろ!」  同調するかのように暗闇のあちこちから怒鳴り声が聞こえる。店員はなすすべもなく暗闇の中を走り回るだけだった。そして、スロットコーナーからも怒号が聞こえ始めてきた。 「おいおい、はやくしてくれよ!」 「まだか!」 「はやくつけろ!こっちは真剣に打ってんだよニューパル」 「非常用電源ないのかよ!」  なんか語尾に混じっているやつがいる!
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耳をすますと、やっぱり語尾に何かついてる
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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