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パチスロ名機「ニューパルサー」を愛しすぎる、ニューパルおじさんとの邂逅

耳をすますと、やっぱり語尾に何かついてる

 あまり注意深く聞いていなかったので正確に聞き取れなかった。でも絶対になんか語尾についているやつがいる。スロットコーナーからの怒号を注意深く聞いた。 「ちゃんと停電前の状態に戻るんだろうな!」 「保証だ、保証よこせよ!」 「こっちは遊びで打ってんじゃないんだよニューパル」  絶対にニューパルおじさんだ!   なんてことだろう、本当に語尾にニューパルをつけて喋るやつがいるとは思わなかった。  少しだけ闇に目が慣れてきたので自分の台など放置し、手探りでスロットコーナーへ、そしてニューパルサーコーナーへと向かった。 「俺は本気で打ってんだよ!ニューパル」  はっきりと聞き取れた。やいのやいの言っている中に、やはり語尾にニューパルをつけているやつがいる。その瞬間、電気が復旧した。照明がともり、台のランプが次々と灯り始めていた。

ニューパルおじさんは実在していた

 事態が落ち着くのを待って、そのニューパルおじさんと思われる男に話かけた。 「すいません、ニューパルおじさんですか?」  ニューパルおじさんは驚いた表情で振り返り、照れ臭そうに笑った。 「ちょっとジュースでも飲みに行こうか。奢ってくれよニューパル」  そう言ってまたニヤリと笑った。けっこうがめついおっさんだ。とにかく、僕とニューパルおじさんは連れ立ってドリンクコーナーへと向かった。  店内は停電の後処理で慌ただしかった。おまけに大量の雨水が正面玄関のドア隙間から流れ込もうとしていたようで、必死に雑巾で塞いでいた。 「ニューパルおじさんなんですか?」  僕の問いに、ニューパルおじさんは小さく頷き、コーヒー缶を口に運んだ。そして口の中の液体をゴクリと飲み干して答えた。 「まあ、そう呼ばれているなニューパル」  なんでも、前に通っていた店でそう呼ばれていたらしい。いちいち語尾にニューパルが付くから本当にそのたびにイライラして会話にならない。ともかく、本当にニューパルおじさんは実在したのだ。それはまるで有名人に出会ったような、いや、ペガサスやグリフォン、ドラゴンなどの空想上の生き物に出会ってしまったような興奮があった。
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ニューパルおじさんの噂の真相を本人に確認してみると……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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