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パチスロ名機「ニューパルサー」を愛しすぎる、ニューパルおじさんとの邂逅

ニューパルおじさんの噂の真相を本人に確認してみると……

 そこで、ニューパルおじさんに関する噂がどれだけ正確なのか確かめることにした。 ・常にニューパルを打っている。朝から晩まで打っている  これは間違いらしい。今は別の機種も打つらしい。あとお金が続かないので朝から晩までも打たない。ほどほどに打つ程度らしい。 ・ニューパルが好きすぎるあまりリーチ目をすべて暗記している  これも間違いらしい。むしろマニアックなリーチ目を覚えている奴は気持ち悪いとまで思っているらしい。なぜならマニアックなリーチ目が出たあとに数ゲーム回せば普通にわかりやすいリーチ目が出るからだそうだ。 ・ニューパルが好きすぎるあまり、リーチ目が分からない他の客を一喝する  だから他の客を一喝するなんてことはない。むしろ一喝されるそうだ。 ・ニューパルが好きすぎるあまり台を撫でながら打つ  これもウソ。そんなやつおらんだろと怒られてしまった。 ・よく行く店のニューパルに名前を付けている。  これもウソ。そもそもよく行く店がないらしい。昔はあったけどいまは色々な店に行くようだ。 ・ニューパルが好きすぎるあまり、ボーナスが揃ったときに自作の歌を唄う  ウソ。いいかげんにしろと怒られてしまった。 ・ニューパルが好きすぎるあまり、腕に「ニューパル」と彫ってある  これもウソ。まじで怒られた。 ・ニューパルが好きすぎるあまりすべての言葉の語尾に「ニューパル」がつく  これだけが本当。  なんてことだろう。これだけはないだろというやつだけが本当だった。つくづく都市伝説や噂の類などはあてにならないものだ。

消えゆくニューパルを永遠に記憶するために

「どうして語尾にニューパルなんでしょうか」  どうせよくわからないキャラ付けなんだろう。痛いやつだ。と思ったのだけど理由を聞いてみるとなかなか深いものがあった。 「俺だけは忘れないって思っているのよニューパル」  ほんと語尾にイライラする。  冒頭でも述べたようにあらゆる店を席巻したニューパルサー。しかしその時代も永遠に続くわけではない。徐々に下火になり、台数を減らしていった。いつくはホールからすべてのニューパルサーが消える日が来るだろう。その栄枯盛衰の儚さがかつてのおじさんに重なった。  多くは語らなかったが、おじさんは凄腕のサラリーマンだった。おじさんの周りには人が溢れ多くの人に慕われていた。しかしながら、仕事がうまくいかなくなると同時に、それらも同じようにうまくいかなくなってしまった。それはとても苦しく、寂しいものだとおじさんは呟いた。 「だから俺だけは忘れねえって思ってるわけよ」  あ、こいつ語尾を付け忘れたな。  とにかく、自分だけはニューパルのことを忘れない。そんな気持ちで語尾を続けているらしい。 「僕も忘れませんよ、ニューパルのこと。こんな機種があったってこと忘れません。語尾はつけませんけど」  僕の言葉にニューパルおじさんは満面の笑みを見せた。 「じゃあ、俺と君は今日から友達だニューパル」  にっこりと笑う。相変わらず語尾にイライラする。  とにかく、僕とニューパルおじさんは友達になったのだった。  現代はなにかとバズりやすい時代だ。多くの人は同じように行動し、同じものを求める。あの日のニューパルみたいなことが毎日のようにどこかで起こっている。そのたびに、僕はニューパルおじさんのことを思い出す。何かがバズるということは、その何かの衰退も予定としてスケジュールされるのだ。僕らはそれをただいたずらに消費しているに過ぎない。そのなかで自分は忘れないと好きでいることができるだろうか。  ニューパルおじさん。元気してますか。いまだに語尾にニューパルつけてますか。あの日できた僕の新しい(New)友人(Pal)に、いつだって問いかけ続けているのだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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