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話の通じないおっさんの、頭の中は一体どうなっているのか? 謎が今解き明かされる

上川さんの巧妙な言い回しに騙される松田さん

 ここが上川さんのほんとうにいやらしいところなのだけど、松田さんのことを煽ったり、適当なアドバイスをしたり、ときには完全なる嘘をついて騙したりするのだけど、まれに本当のことを言って信憑性を持たせてくるのだ。もちろんこれは本当。 「テレフォンはtele(離れた)phone(音)だろ、テレビジョンはtele(離れた)vision(映像)だ。だからテレワークはtele(離れた)work(仕事)だよね」 「へえー」  本当に上川さんはいやらしい人間なので、稀に本当の正解をぶっこんでくる。ただし、そうやって信憑性を持たせてから平気でウソをぶっこんでくる。だからたちが悪い。  ここで松田さんが疑問をぶつける。 「じゃあさ、もしかして、30年くらい前に流行った「テレビデオ」も離れたビデオってこと? でもあれ、離れてないよな、むしろビデオが引っ付いているし」  テレビとビデオが合体したテレビデオという商品が爆発的に流行したことがあった。テレビの上にビデオデッキがあって一体化しており、面倒な配線が不要という代物だ。もちろん、これはテレビ+ビデオからきた商品名なわけで、別にビデオが離れているわけではない。それを説明すればいいのだけど、ここで上川さんの悪い癖がでて、平気でウソをぶっこんでくる。 「いいところに気が付いたね。それが販売戦略です。あえてtele(離れた)video(ビデオ)と名付けることにより、いやいや、そうはいっても一体化しているしね、離れてないじゃん、とユーザーに違和感を覚えさせるわけ。逆の要素により本来の要素が強まるというわけ」 「なるほど、スイカに塩をかけるようなもんだ!」  そんなわけがあるか。

そしていよいよ、平面的な傭兵の謎が明らかに

 明らかなる嘘なのだけど、松田さんは納得してうんうんと頷いていたらしい。そして、しばらく考えたのちに新たな疑問が湧いてきたようだ。 「もしかしてなんだけど、昔ちょっとテレビに出ていて、最近はあまり見ないんだけど、元傭兵みたいな謳い文句でテレビに出ていたテレンスリーって人いたじゃん。あれってもしかして……」  ここでも上川さんのウソが炸裂する。 「よくぞ気が付いた! あれはtele(離れた)ンスリー(ンスリー)だよ。もともとはンスリーさんっていうひとなんだけど、元傭兵という立場だから色々な人に狙われて危険があるわけ。そこでテレビには身代わりのパネルが出ていたわけよ。実際の本人は離れた場所にいたの。よく見ると平面的だったでしょ、あの人。身代わりのパネルだったからだよ」 「なるほど。確かに平面的だった!」  んなわけあるか。  こうして松田さんの中では「元傭兵であるテレンスリー遠隔地からの身代わり出演で、平面的だった」となり「元傭兵って平面的」となったのである。  結果だけ見ると意味不明だけど、その過程がわかると「まあ9割がた上川さんが悪い」と理解できる。  おっさんがなに言っているのかわからん、というときはたいてい、その過程がすっとばされて結果だけが提示されている。その過程を探っていけばまあまあ納得できることもある。逆におっさんの方は、もう少し受け手側の気持ちを察し、順序だてて過程が分かるように伝えることが秘訣なのだ。 「女は海って歌っていた人も身代わりだったんだな」  松田さんが全てを悟ったようにそう言う。狂っている。  これも紐解いていくと、歌っているのがテレサ・テンで、これはtele(離れた)サテン(ツヤツヤした生地)という意味になるらしい。女は海と歌いながら舞うヒラヒラした衣装がサテンで、あれが身代わりらしい。こうやってその過程を紐解いていくと理解できる。松田さんはアホだ。勘違いしている。女は海と歌っていたのはテレサ・テンではなくジュディ・オングだ。  そうなると、根本的なところになるけど、松田さんが恋したという女は海と歌っていた人に似ている緑のおばちゃんは、ジュディ・オングに似ているのか、それともテレサ・テンに似ているのか。その辺も順序だてて紐解いていかなければならない。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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