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おっさんの安らぎの場所、田迎サウナの魅力に包まれて

政治的主張をし続ける常連客の存在

「兄ちゃん、見ない顔だけどどこから来たん?」  本当にきかれた。  心の中で「キタキタキター」ってなってしまった。 「あ、東京からです」  そんな会話が展開される。 「最近、東京から来る人おおいな」 「俺は東京なら三鷹とか知っているぜ」 「国葬反対」  探りをきっかけにそんな会話が常連の中で盛り上がる。 「兄ちゃんは?」  僕らの横にいた新参っぽいおっさんも探りを入れられる。 「あ、僕はけっこう来ていますよ」  自分はしっかりと常連であると主張する兄ちゃん。 「いや、みたことねえな」 「おれもねえな」 「国葬反対」  常連たちはその見ない顔が常連だとは頑として認めない。それより、さっきからずっとサウナ内のテレビを見ながら国葬反対って怒っている常連はなんなんだ。

僕らが忘れかけていた銭湯コミュニケーションがそこにあった

「あ、僕は夜の部ですからね。昼はほとんどきたことないです」  兄ちゃんのカミングアウトを受けて常連たちの間に安堵の空気が広がる。なるほど、夜の部なら俺たちが知らなくて当然だ。常連仲間の顔を忘れるほど耄碌したのかと思ったぜ、という空気感だ。っていうか夜の部とか昼の部という概念があるのか。  とにかく、サウナの中では常連を中心に世間話が展開される。  この田迎サウナには、古き良きコミュニケーションがあるのだろう。各家庭に風呂が設置されていることが少なく、銭湯を中心に近隣住民のコミュニケーションがとられていた時代。そのような雰囲気がここにはあるのだ。  だから、「どこかから来たん?」と常連が探りを入れにきても悪い気はしない。それをきっかけに知らない顔とコミュニケーションをとる、そのような空気があるのだ。僕らが忘れかけていた銭湯コミュニケーション、それが脈々と田迎サウナに受け継がれている。 「こんちわっす!」  比較的に若く、かなりの常連ぽい雰囲気を身に纏ったお兄ちゃんがサウナに飛び込んでくる。 「お、新参か、どこからきたん?」  重鎮っぽい常連がこれまでの流れを受けてお兄ちゃんをいじる。 「東京か?」 「三鷹か?」 「もう、新参じゃないっすよー。いつも来てるじゃないですかー」 「ゲハハハハハハハハ」 「国葬反対!」
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おっさんが生き生きと過ごせる田迎サウナ。ロッカーだけを除いては
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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