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おっさんの安らぎの場所、田迎サウナの魅力に包まれて

おっさんが生き生きと過ごせる田迎サウナ。ロッカーだけを除いては

 銭湯が一つの社会だった時代のように、そのなかで生き生きと過ごすおっさんの姿、それが田迎サウナにあるのだ。 「おーい! 17番のロッカーのカギ持ってるやつ!」  ひとあし先に上がっていた重鎮っぽい常連がサウナに飛び込んでくる。どうやら、自分が服を入れていたロッカーが後から来た新参に鍵を閉められたらしい。 「あれだけ指さし確認したんだから俺たちじゃないはずだ」  そう思っていたが、17番を持っていたのは僕たちのグループの者だった。あんなに確認したのに。 「すいません。すいません」 「裸で帰るところだったわ、ゲハハハハハ」  めちゃくちゃ怒られるかと思いきや、重鎮はめちゃくちゃ朗らかに笑っていた。もしかしたらこれすらも彼らのコミュニケーション手段なのかもしれない。  田迎サウナはサウナも水風呂もレベルが高い。けれども真の魅力は、常連たちが形成する雰囲気なのかもしれない。現代で薄れていきつつある銭湯コミュニケーションなのかもしれないのだ。 「めちゃくちゃ指さし確認したのに、おっさんの着替え、上の段のめちゃくちゃ分かりにくい場所に隠すように入っていた」 「もしかしたら本当に罠なのかもしれない。常連から新参への洗礼みたいなものなのかもしれない。そうやっておれたち新参を吊るルアーなのかもな」  常連のおっさんどもが生き生きと過ごす田迎サウナ。そこでは常連も新参も気持ちよく笑いあう光景があった。また来たいな。そう決意する僕の傍らで、吊るされた500円玉が開いた入口ドアからの風を受けて誘うように揺れていた。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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