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どんなに喧嘩して絶交しても、おっさん同士はウンコの速さでわかり合える

おっさんは二度死ぬロゴ_確認用おっさんは二度死ぬ 2nd season

おっさんになって衰えるもの

 おっさんになると意外にも劣化するものが2つある。もちろん、体力だとか容姿だとか精力だとか頭髪だとか、そういった当たり前に劣化するものではなく、実に意外な2つの事象だ。  ひとつが、ウンコ我慢である。  そこまで気にしたことはないかもしれないが、このウンコ我慢力、年齢による劣化が著しいのだ。それも、グラデーション的に徐々に劣化していくのではなく、ある時を境に激烈にその力を失っていく。持っていたスキルを何らかの理由で失ったレベルでこの能力が損なわれる。  若かりし頃は「あれ、お腹が痛くなりそう?」から「これはやばい」となるまでにけっこうな余裕がある。その時点でトイレを探し始めるのだけど、まだまだ「もうダメ」となるまでに猶予がある。これが若さの力なのだ。  おっさんになるとまず、「あれ、お腹が痛くなりそう?」から「これはやばい」が尋常じゃなく速い。下手したらほぼ同時だ。腹痛に気付いた時点でそれは臨界を迎えつつある。さらには「もうダメ」までもすぐにやってくる。つまり、腹痛に気付いてから切羽詰まった状態になるまでがとにかく速い。  例えると、八王子から新宿に向かって中央線に乗った場合、若い頃は立川あたりで腹痛の危険性を察知する。そして、三鷹あたりでいよいよやばいかもとなる。阿佐ヶ谷あたりで、もうダメ、と天に祈ったりするが、なんだかんだで新宿まで人権を保持したまま到達する。これがおっさんとなると深刻だ。  まず、八王子を出た瞬間に腹痛に気付き、次の駅である日野に到着するまでに「これはやばい」「もうダメ」「あああああああああああ」とあらゆる苦難が波状攻撃でやってくる。1駅間でこれだ。そして人権を失うこともままある。まさに回避不可能というわけだ。  このウンコ持久力みたいな能力がおっさんになると極度に低下するわけだ。意外と知られていないかもしれないがこれは歴然たる事実だ。つい先日もこのような事件があった。  中野の居酒屋で朝まで飲んでいた時だった。おっさんになると堅実に生きるようになり、例え楽しい飲み会であっても次の日が辛いからと早々に切り上げて終電前に帰ることが多いが、まれに朝まで飲むと若返ったようで楽しいのだ。 「こうやってたまには朝まで飲むものだよな!」  ほとんどの店がシャッターを閉じる早朝のアーケード商店街。通りに人影は少なく、酔いつぶれてそのへんにしゃがみ込んでいる世捨て人みたいな若者が時折に見えるだけだ。その姿に若かりし頃の面影を見たのかヒデさんは上機嫌だった。 「おれもこうして中野で酔いつぶれていたんだよ。若い頃はな」

おっさんになるとあらゆる耐性がなくなる

 若者ぶって朝まで飲んでだと言っても居酒屋での僕とヒデさんの会話は若者のそれらしくはなく、体の不調、老後の積み立て、親の介護、上がるばかりの税金と保険料、iDeCoそんな若者らしくないものばかりだった。なにも恐れることなく、なにもかもが上手くいくと信じて疑わなかったあの頃の真っすぐさを語るには、僕らはあまりに年を取りすぎてしまった。 「それでここで飲んだくれていたらよ、タツヤに会ったんだよ」  タツヤとは、ヒデさんの昔からの親友だ。どうやらこの中野でバーみたいな雰囲気の良い店を経営しており、酔いつぶれた若かりし頃のヒデさんと意気投合、それからずっと飲み友達らしい。 「ただな、最近は疎遠でよ。会うわけにはいかないのよ」  ヒデさんは寂しげな表情を見せた。 「そうなんですか? どうせなら今から挨拶に行きましょうよ! 僕もタツヤさんのお店に興味があります」  はやい話、けっこう酔っぱらっていたヒデさんがまあまあ面倒くさい感じに仕上がっており、このままでは家まで送っていく必要がありそうだったので、タツヤさんのお店に押し付けて帰ろうと企んだのだ。 「ダメだ。おれとあいつはもう喧嘩状態よ」  些細な行き違い。ちょっとした口論。何が原因かは分からないけど、両方が怒り狂った状態になってしまい、そこで絶縁となってしまったようなのだ。ヒデさんはタツヤさんの店に行くことを拒否した。  おっさんは怒りに対する耐性もかなり劣化する。これがもう一つの劣化だ。若い頃は我慢できていたことでもおっさんになると我慢できない。結果、些細なことで怒り狂ってしまい周りの人間関係を失うことが多々あるのだ。年齢を重ねるごとに落ち着いていき、我慢強くなりそうに思うかもしれないが、意外にも些細なことで怒りやすくなるのだ。 「どういった理由で喧嘩したんですか、タツヤさんと」 「それは言えねえ」  詳しく聞こうとするのだけどヒデさんは答えない。どうせ些細なことが原因で言い争いになったに違いない。どうせばからしい理由に違いない。ただ、やはりおっさんにとっては珍しいことではなく、僕らは本当に怒りに対する体制が失われ、本当に些細なことで人間関係を失っているのだ。 「まあ、そういうことありますよね」 「そうよ……」  人通りの少ない、少しひんやりとした早朝のアーケード通り。その荒涼とした寂しい風景はなんだか自分たちの人生そのもののように思えた。  その時だった。
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ヒデさんのお腹が緊急事態に……
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