エンタメ

どんなに喧嘩して絶交しても、おっさん同士はウンコの速さでわかり合える

おっさん二人がガチで喧嘩した理由とは

「ところでどうしてヒデさんと喧嘩したんですか?」  初対面、ウンコが速いではさすがに会話が続かないので少し踏み込んだ質問をしてみた。タツヤさんはしばらく考え込んだのち、ゆっくりとした口調で答えてくれた。 「そこのテーブルでね、ヒデとゲームしていたのよ。客もいないし。常連が忘れていったカードゲームをね」  その時にかなり白熱した展開になってしまい、お互いに熱くなってしまったらしい。何度かの死闘のあと、通算成績が五分くらいの感じになり、いよいよ最後の対戦にしようかというとき、タツヤさんが勝利をおさめた。しかし、そこで事件が起こった。 「おまえ、いま残り1枚になったときにUNOって言わなかったろ。言わなかったからあがっても無効だからな」 「いったわ」 「いーや、いってない」 「いった」 「いってない」  こうして喧嘩になったらしい。死ぬほどくだらない理由で喧嘩してやがる。怒りに対する耐性がなさすぎだろ。 「いま思えば、俺も大人げなかったよ。今日はあいつをつれてきてくれてありがとな」  タツヤさんはそういって僕に深々と頭を下げた。

やはりおっさんのウンコは速いのだ

「今日はほんとにたすかったわ。思えば俺も大人げないところがあった。また飲みに来るから」  トイレから出てきたヒデさんは、ヒデさんなりの謝罪みたいなことを口にし、タツヤさんと和解した。  中野駅までのアーケード通り、相変わらず人は閑散としていて何か荒涼な景色だけど、さきほどまでの気持ちとは何かが違う。 「おっさんになると怒りの耐性がなくなるけど、怒りを忘れるのもはええのよ」  ヒデさんはそう言って、酔いつぶれている若者を眺めながら笑った。まるでお前にもそのうちわかるよといわんばかりに。  駅が近づく。ヒデさんが不安そうにこちらを振り返る。 「やべえ、さっきだしきってなかった下痢がまだ出そう」 「どれくらいやばいですか?」 「UNO!」  もうギリギリじゃねえか。 「駅まで走れーー! 走ると出るーー!」  駆け込んだ駅のトイレの個室が満室だったらしく、中からヒデさんの声でまた 「UNO!」  とだけ聞こえた。やはり僕らおっさんのウンコは速いのだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ