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かつての中国の最高指導者・江沢民が死去。一時代を築いたその堅実さ/倉山満

江沢民にカリスマはないが、その堅実さで時代を築いた

 中国はファシズム国家である。ファシズムとは、国家(政府)の上に支配政党が存在する体制である。中国にも野党が形式的に存在するが、意味はない。こうした体制では、国家に忠誠を誓う前提の軍が党に反抗的となり、党は軍の対策に苦慮する。ドイツのナチスはドイツ国防軍の反抗に手を焼いたし、ソ連共産党は赤軍に先手を打って大粛清を敢行した。  中国共産党は、軍閥のようなものであり、紅軍は「党の軍隊」のような性質を帯びていた。しかし、国共内戦を通じて多くの軍閥を従えただけであり、内部には暗闘を抱えていた。いまでも軍は一つの総合商社のように独立した存在として商売に励み、その主要財源は賄賂である。そもそも鄧小平も軍閥の巨頭であった。自身が百戦錬磨の戦闘を勝ち抜いてきただけに、党や国家の主席は子分にやらせるが、軍の掌握だけは自らの手を放さなかった。  こうした、党、国家(政府)、軍の関係が統合されていくのが、江沢民の時代である。江沢民は党、軍、国家のすべての長となった。毛沢東や鄧小平のようにカリスマはない。だからこそ、テクノクラートの江沢民には堅実さが求められ、成功していく。江沢民時代に党が軍と政府を押さえつける態勢が確立していく。

’90年代、中国にとって笑いが止まらない時代が到来した

 ’91年、ソ連は崩壊した。米欧諸国は明らかに平和ボケしていた。特にアメリカ大統領のビル・クリントンは親中政策に傾斜していく。一方で、民主化を進めようとするロシアのボリス・エリツィンを目の敵にするかの如く、ユーゴ紛争でことごとくメンツを潰したのが、’90年代だった。  中国にとって笑いが止まらない時代の到来だ。江沢民は、その好機を見事に生かした。鄧小平以来の「改革開放」を進め、明確に資本主義経済に舵を切る。さらに笑いが止まらないことに、隣にカモがネギを背負うどころか、鍋と文化包丁を自ら担いでやってくるような、間抜けな島国が現れた。日本だ……。  当時の日本経済は、バブル崩壊で不況に突入する。日本人は崩壊しているのに気付かず、気付いてからもなんらマトモな対策を打たない。日本銀行は金融引き締めで、悪化した景気をさらに悪化させてデフレを到来させる。そこに財務省が消費増税で追い打ちをかける。政治が正すかと思いきや、その当時の総理大臣は竹下登の思うがまま。その竹下はアメリカが親中ならと自らも親中に走り、自国に対する経済制裁のような政策を放置、むしろ推進する有様だった。あげく日本のマスコミは「ルックチャイナ」「中国は世界の工場」などと煽り、本当に多くの企業が中国進出。デフレだから日本にいたくないので、産業の空洞化が起こる。さらに産業の空洞化がデフレに拍車をかけるという、地獄を自ら招き寄せた。中国は労せずして、日本の金、人、技術を手に入れた。
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戦わずして、世界第二位の大国の地位を不動のものにした江沢民
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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