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高市早苗氏と小西洋之氏「行政文書」対決に感じた5つの違和感/倉山満

中身以前に文書作成の経緯について検証が必要

 第一。「伝来の素因」はどうなっているのか。文書学で真っ先に習う概念が、「伝来の素因」だ。その文書が、どのような由来を経て、現在この場所に存在しているかの経緯の説明を指す。いつ、誰が、誰に向けて作った、どのような文書か。最低でも、作成日、作成者、宛所、文書名を特定する。たとえば、「昭和六年九月十九日林久治郎奉天総領事発幣原喜重郎外務大臣宛公電第六三〇号」のように。この文書は、文書名を見ただけで「作成日」「作成者」「宛所」は明確であるし、外務省で使われた電報であり、公文書であるとわかる。現在は外務省外交史料館に現物が残存している。『満洲事変(支那兵ノ満鉄柳条湖爆破ニ因ル日、支軍衝突関係)』第一巻という簿冊(ファイル)に収録されている。整理番号(請求記号)は「A・1・1・0・21」で、誰もが確認できる。  細かいことを言い出すとキリがないが、この史料は電報なので、「発電時間」と「到着時間」も記録されている。「作成者」「宛所」はそれぞれ在外公館と本省の責任者であり、時に本人が関知しないで名前が使われていることもある。自筆の書信の場合は筆跡で間違いなく本人が書いたと確認できるが、時に部下が花押(サイン)を偽造する役所もある。公電の性格上、電信官はもちろん、複数の外務官僚・外交官が閲覧する場合もあるし、時に作成者と別の起草者がいる場合もある。作成者や宛所が個人ではなく、部局の場合もある。日記や覚書のように宛所が存在しない、秘密を前提とした文書も存在する。  などなど、中身以前にその文書がどのようなものかの検証がなされる。その技術の集大成が文書学で、歴史学では誰もが習うことになっている。

一つの文書だけを証拠に事実は断定できない

 例示した「~六三〇号公電」は、満洲事変のきっかけとなった柳条湖事件が関東軍の自作自演ではないかとの推理を現地の外交官が本省に意見具申した電報だ。現在、満洲事変は関東軍の自作自演であると知られているが、この一つの文書だけを証拠に断定したのではない。歴史学とは、あらゆる史料を駆使して事実を再現する学問である。間違っても一つの史料を金科玉条にして「ここに書かれていれば事実だ!」などと吹聴するなど、許されない。事実の特定には「史料批判」という厳密な手続きが求められる。  ちなみに、小西議員が示した公文書は「行政文書」と呼ばれる公文書であり、総務省内部で使用され、記録保存されたとのこと。

「官僚が作成した=すべて真実」にはならない

 第二が、「史料等級」である。簡単に言えば、一次史料と二次史料の区別だ。事実の発生時から同時代に、当事者が、秘密を前提として残した史料は、一次史料として等級が高い。逆は二次史料として等級が低くなる。たとえば、同時代の秘密記録は一次史料であり、数十年後の刊行物は二次史料である。ただし、史料等級が高いから記述のすべてを信じられる訳ではなく、低いから何も信じられない訳ではない。ここでも厳密な検証が求められるので、史料等級は一つの目安である。間違っても、「官僚が作成した文書だから、すべて真実」にはならない。
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小西議員の持ち込んだ行政文書。どのような伝来の素因で小西議員の手元に渡ったのか
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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