更新日:2023年04月09日 11:04
エンタメ

報道ではほとんど伝えられなかった、坂本龍一さんの想い

坂本さんに関する報道は、彼が重視していなかったことばかりに焦点を当てていた

 坂本さんが望んでいたのはおそらく、戦うこともなく一万年以上も自然と共存してきた縄文期の在り方ではないか。縄文の「三内丸山遺跡」のことは坂本さんに教えてもらった。坂本さんはとてつもない読書家で、何かわからない時には教えてもらう相手だった。その坂本さんの父が、高橋和己や野間宏をはじめ、数多くの作家を世に紹介してきた編集者であることに触れた報道もなかった。  どの報道も、「アカデミー賞を受賞した」だとか、彼が重視していなかったことにばかりに照明を当てている。彼はいつも次に何をどう表現するかに興味があって、自分の肉体が属している自然な環境そのものを表現しようとしていた。こんなに滅茶苦茶に間違った解釈で、坂本さんの気持ちを踏みにじっていいのか。

坂本龍一さんを、博物館の標本にしてはいけない

no nukes 彼は明瞭に「核や原子力」と人間は共存できないと言ってきたし、戦争・紛争は「戦わない」という方法でなければ解決できないと言い続けてきた。そのことを伝えなければ坂本龍一はただの博物館の標本にされてしまう。  それではあまりにも坂本さんが不幸だ。坂本さんはアフリカで、コップ一杯の水で口を漱ぎ、身体を洗い、暮らす方法まで知っていて、現にそうしたこともあると言っていた。服は気にかけず、生きることにだけ気を集中させていた。それなのにあんまりではないか。彼にとっては海・川・水を汚すことが、身体的な感触を伴って嫌悪することだった。なのにファッション的に語るなんて、侮辱ではないか。  坂本さんが生き続けていくには、人々が自分事として自分の中に自然を活かしていくことでしかない。ぼくらは大切なかけがいのない人を失った。それは致し方のないことだ。しかしそれを博物館の標本にしてはいけない。 「ぼくらの中に坂本さんの想いを落とし込んで、内側から了解すること」。それが必要なことなのだと思う。
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これからも、坂本さんの想いを引き継いでいく
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1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和など、さまざまなNGO活動に関わる。2012年末に岡山に移住。2013年5月、電力会社に頼らない太陽光パネルと独立電源システムの生活、「オフグリッド生活」を始めた。2016年、国産無垢材で極力化学物質を使わない「天然住宅」で自宅を建てる。現在「未来バンク事業組合」理事長、「ap bank」監事、「一般社団法人 天然住宅」代表、「天然住宅life」共同代表、「自エネ組」相談役を務める。横浜市立大学非常勤講師。著書に『地球温暖化 電気の話と、私たちにできること』(扶桑社)など。

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