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匿名掲示板で叩かれているお気に入りの風俗嬢を助けるために立ち上がったおっさん達だが……

「るね」ちゃんの落ち込みの原因とは?

「そういうものですか」 「そういうものだよ」  さて、そんな「るね」ちゃん、山岡さんが「どうしたの?」と心配しても「ううん、大丈夫だよ。なんでもない」とニコリと笑ってくれるらしい。山岡さんいわくこれもリアルらしい。 「そういうものですか」 「そういうものだよ」  何度かそう言ったやり取りを経て、「るね」ちゃんがついに落ち込んでいた原因を話してくれた。 「それがなあ、掲示板の書き込みだったんだよ」  とある匿名掲示板においては、風俗というカテゴリがあり、そこに地方ごとの分類があって店ごとのスレッドが立っているらしい。人気のある子だと店のスレッドを飛び出してその女の子のスレッドが立てられたりもするらしい。そのスレッドの内容は、まあ97%くらいが悪口だ。  基本的に店の悪口、女の子の悪口みたいなものが書き込まれており、発展的な意見交換はほとんど見られない。魑魅魍魎が蠢くパンドラの箱、百鬼夜行、山岡さんはそう評した。  この令和のご時世によくそんなこと書けるなと驚くほどの誹謗中傷、個人情報、風説の流布が書き込まれる、そんな世界らしい。

「るね」ちゃんへの悪口が過激になっていった

「るね」ちゃんは人気のある女の子だったので以前からそのお店のスレッドに悪口が書き込まれることがあった。しかし、そんな「るね」ちゃんを擁護する書き込みもいくらかあり、それでなんとか気にしないように振る舞うことができた。 「その擁護って俺だけどな」  山岡さんは誇らしげだった。  しかしながら、最近はその悪口がエスカレートし、苛烈になってきたらしい。しかも内容が、ちょっと客視点からでは分かるはずがないものに及んできた。早い話、「るね」ちゃんは同じお店の別の女の子が書いてるんじゃないかと疑いを持ったそうなのだ。そうじゃなきゃ書けない内容が増えてきた。山岡さんいわく、これはよくある話らしい。  人気がある子ほどさ、なんであいつばっかり、みたいに同僚からのやっかみみたいなのあるわけよ。人気のある子とない子、その格差が明確にでちゃう業界だからね。本来なら、どうやったら人気がある子みたいになれるのかと前向きになるべきなんだけど、その選択をとれる女の子は少ないね。たいていは「自分は自分」と割り切るけど、中には足を引っ張ってやろうとする女の子も多い。そんな業界だよ。そういう子が匿名掲示板に悪口を書いたりする。(風俗通識者 Y岡氏、48歳)  そういった事情を「るね」ちゃんも薄々は感じていて落ち込んでいるということだった。気にしないようにしていると言っても明確な意思をもって自分に向けられる悪意は、徐々に人の心を蝕んでいく。それなら割り切ってその類の掲示板を見なきゃいいと思うけど、どうしても見てしまう。そんな自分にも嫌気がするということだった。 「おまたせ」  山岡さんとそんな話をしていると知らないおっさんがかなり馴れ馴れしい感じでやってきた。僕がキョトンとしていると山岡さんは屈託のない笑顔を見せてこう話した。 「あ、こちら夏井さん、俺の友達。こんなこともあろうかと思って呼んでおいたんだ」  こんなこともあろうかとって言っているけど、どんなことがあったんだ。まだ何も起こっていない。ただデートコースの神髄と匿名掲示板の魑魅魍魎みたいな話を聞いただけだ。
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とある特殊スキルを持っている夏井さん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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