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おっさんが自暴自棄になったときに繰り出す「おっさんカオス」とは何か

ossan2-2おっさんは二度死ぬ 2ndシーズン

おっさんたちのカオス

 おっさん自身、もうどうにでもなれと自暴自棄になって大胆な行動をとってしまうことがある。後から考えるとなんでそんな行動を選んでしまったのかと後悔もするけど、それでもその時は間違っていなかったと確信しているのだ。僕はおっさんがそういう状態になることを「おっさんカオス」と呼んでいる。  僕自身、数年前にそのおっさんカオスに陥ったことがある。  あれは、品川駅から新横浜駅に向かおうとした時だった。乗り換えだとかそういったのものがとても面倒だったので高いお金を払ってでも楽に移動したいと思い、新幹線で行こうと考えたのだ。品川から新横浜は新幹線では1駅、数分で到着する。  ただ品川から新横浜まで移動するだけなのに新幹線に乗るという、ちょっと大胆な行動をとる自分に興奮を覚えた。テンションが上がってしまったのだ。悪いことに、新幹線の各駅の売店はたいていストロングゼロを販売している。上がり切ったテンションに身を任せストロングゼロを買った、飲んだ。なかなかハイペースだったと思う。新幹線に乗る前には出来上がっており、乗り込んでからさらに飲んだ。そして眠ってしまった。  目が覚めると、広島駅に到着していた。寝過ごした。やっちまった。  降りるべき新横浜駅と広島駅の距離は865.4キロ。なかなかこれだけの距離を寝過ごすやつもいない。というか、目が覚めたときに何が起こったのか完全に理解できなかった。様々な思いが頭の中を駆け巡り、混沌とした脳内で「寝る場所を確保しなければならない」という強い思いが生じていたことだけを覚えている。  ちなみに、広島駅で目覚めたのはこの新幹線が広島止まりの新幹線だったからだ。普通に博多まで行くやつだったら博多まで寝ていたと思う。  さて、ここまではまあ、理解はできないけど理解はできる。まあ、そういうこともあるよね、という感じはする。問題はここからの行動だ。おっさんカオスが訪れたのだ。

どこも満室だった広島。そこで僕はおっさんカオスに突入した

 もう新横浜というか関東地方まで戻る新幹線はない。つまり広島での宿泊がほぼ決定だ。なんとか野宿とかは避けたいと、ネットで検索をかけてみたのだけど、その日の広島はおかしかった。プロ野球の巨人戦だとか、なんだかのグループのライブだとかいろいろなものが重なっているらしく、ホテルはすべて満室、妥協してカプセルホテルやサウナを探すけどそこも満室、もう年齢的にかなり厳しく、まったく疲労が取れないだろうけどネットカフェで夜を明かすかと妥協しても、そこすらも満室だった。完全に泊まる場所がないのだ。  どんどんと思考回路が混沌としてきて、ついにおっさんカオスが訪れてきた。なんと、唯一、空室のあった高級ホテルのカップルプランみたいな部屋に泊まることにしたのだ。恋人たちが付き合って1年の記念日などに奮発して泊まるような部屋だ。宿泊料金、めちゃくちゃ高い。部屋の中は随所に恋人たちに向けたメッセージ―などが散りばめられていた。そこにおっさんが独りで泊っているわけだ。 「記念のケーキがでるんですがメッセージはどうしましょう」  ホテルの人が申し訳なさそうに切り出す。そういったプランだから仕方がないといった感じで言っていた。本来なら恋人たちのためのケーキだ。僕は単独のおっさんなんでと固辞すべきなのだろうけど、度重なるアクシデントに頭の中がおっさんカオスになっているので「付き合って1年だね。これからもよろしくね」とメッセージを入れてもらった。  綺麗な夜景、部屋の中に散りばめられたハート型の小物たち、揺らめくキャンドルの炎、小さなハート形のケーキに込められた愛のメッセージ。そこに865.4キロ寝過ごしたおっさんが独り、とんでもないカオスだった。 「とまあ、こういう訳の分からない行動をとっちゃうのが“おっさんカオス”なんですよ。基本的に何かの失敗をした時に、もうここまできたんなら行っちゃえってやることが多いですね」  僕の説明におっさん友達である馬場さんが深く頷いた。  馬場さんとはこの連載に久々の登場となるが、風俗大好きおっさんである。風俗嬢のお礼日記に命を燃やしており、他の客にあてたお礼日記を読んで嫉妬し、自分にあてたお礼日記に「真田幸村」とだけ書かれていた男だ。詳しくは当連載の第34話(デリヘル嬢との恋路に、立ちはだかった戦国武将)を参照されたい。  そんな馬場さんが自分自身に訪れた“おっさんカオス”について説明してくれた。
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馬場さんがデリヘルで犯した失敗
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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