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「耳が聴こえるようになってほしい」“聴こえない親”を持つ小説家が語る、孤独と現在地

点字は文字の代わりに使うもの?

「ぼくの家庭ではあまり手話が尊重されていなかったこともあって、ぼくは手話をしっかり身に付けることができませんでした。でも、両親にとっては手話が第一言語です。だからふたりとわかり合うためには、やはり手話を用いたコミュニケーションを取る必要がありますし、なによりも、彼らの言語を尊重したいと考えています。  ただ、手話を覚えるのは決して簡単なことではなくて。少しずつ勉強していますが、なかなか流暢にはなりません。それでも、両親に育てられたことで自然と覚えた表現と、勉強して覚えたそれらを組み合わせて、昔よりははるかに深い話ができるようになりました」  ちなみに筆者の周りの視覚障害者に聞いてみたところ、点字は文字の代わりに使うもので、「言語」という感覚ではないそうだ。そもそも点字を読める視覚障害者は12%ほどと言われており、大人になってから習得するのはかなり難しい。ろう者=手話、視覚障害者=点字というイメージが強いが、その歴史や使われ方は大きく異なる。

「自分のことは自分で決める」ことの重要さ

聴こえない母に訊きにいく

五十嵐さんの著書『聴こえない母に訊きにいく』(柏書房)

 五十嵐さんへの取材の中で何度もトピックに上がったのが、「自分のことは自分で決める」という当たり前の人権についてだった。  五十嵐さんのご両親は、ろう者同士で結婚した。それまでに多くの壁があったことが書籍で語られている。筆者が代表を務め、視覚障害者が活躍する「合同会社ブラインドライターズ」のスタッフにも、視覚障害者同士で結婚している夫婦が複数いる。しかしいまだに出産・育児に反対されることが多いと聞く。反対することは、心配の証なのだろうか。 「父方の伯母は、母に対して、『あなたが妊娠して子どもを産んだら、私が引き取って育てる』と言っていたそうです。何気ない言葉ですけど、母は子どもを産んで育てるっていう権利を侵害されかけていた。子どもを産むか産まないかは、その人が主体的に選択するものですよね。心配になる気持ちはわかりますが、当然の権利を踏みつけるのは差別でしかない。それを侵害するのではく、たとえば子育てに協力するなど、一緒に解決する道を探してほしいと思います」
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コーダという名前がついて安心した
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ライター・編集、少女マンガ研究家。スタッフ全員が何らかの障害を持つ会社「合同会社ブラインドライターズ」代表。著書に著名人の戦争体験をまとめた『わたしたちもみんな子どもだった 戦争が日常だった私たちの体験記』(ハツガサ)などがある

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聴こえない母に訊きにいく

コーダである息子が未来に進むために描く、小さな家族の歴史

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