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「耳が聴こえるようになってほしい」“聴こえない親”を持つ小説家が語る、孤独と現在地

「1年半という過程も含めて思い出になった」

 書籍の最後に、「できあがった見本誌を手にしたとき、母はどんな顔を見せてくれるのか」と書いてあった。発売日が過ぎ、すでに冴子さんは手に取っているはずだ。一時は、荒れていた息子が自分について書いてくれた本を受け取った母の反応はどうだったのか? 「すごく愛おしそうな感じで『この取材の1年半という過程も含めて思い出になった』と言われました。これまでの本は、あくまでも僕の目線で書いたものだったので、母になにかを訊いたり確認したりすることもなかったんです。でも今回は一緒に作った感じがするし、最初で最後になるかもしれませんから、そう言ってくれたのは本当によかったと思います」  五十嵐さんや冴子さんの苦悩は、周囲からの差別がなければしなくて済んだことだ。私たちは明日にでも、病気やケガで障害を得るかもしれない。そのときに突然人生を諦めることができるだろうか。誰もが生きやすい社会を作ることは、自分の未来を守ることでもある。 <取材・文/和久井香菜子> 【五十嵐大】 1983年、宮城県生まれ。2015年よりフリーライターになる。著書に『しくじり家族』(CCCメディアハウス)、『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬舎)など。2022年には初の小説作品『エフィラは泳ぎ出せない』(東京創元社)も手掛ける
ライター・編集、少女マンガ研究家。スタッフ全員が何らかの障害を持つ会社「合同会社ブラインドライターズ」代表。著書に著名人の戦争体験をまとめた『わたしたちもみんな子どもだった 戦争が日常だった私たちの体験記』(ハツガサ)などがある
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聴こえない母に訊きにいく

コーダである息子が未来に進むために描く、小さな家族の歴史

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