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「耳が聴こえるようになってほしい」“聴こえない親”を持つ小説家が語る、孤独と現在地

コーダという名前がついて安心した

 一方で、確かにマイノリティの子どもたちの孤独感は心配だ。五十嵐さんは若い頃「障害者の親なんて嫌だ」と何度も冴子さんにぶつけたそうだ。 「アメリカには、コーダの子たちが集まる”コーダキャンプ”というイベントがあります。参加者はそこで数日間、コーダの人たちだけで、周りの目を気にせずに思う存分楽しめる。でも、僕が子どもの頃には、コーダだけで集まるコミュニティがなかったですし、そもそもコーダという言葉自体が知られていませんでした。とても孤独だったと思います。  耳の聴こえない親に育てられている子どもは、僕だけなんじゃないか……と思う瞬間もありましたし。だから僕は自分にコーダという名前がついたときに、非常に安心したんです。名前がつくということは仲間がいるということですから。同じように『映画や本で、自分が初めてコーダだと分かってホッとしました。こういう環境にいるのは自分ひとりだと思っていました』と連絡をくれる10代の人もいるんですよ」

「わがままだ」バッシングにどう向き合う?

五十嵐大

五十嵐大さん(写真:島津美紗)

 障害者に限らず、同性婚、選択的夫婦別姓など、権利獲得のために活動をする人たちは、必ずと言っていいほど、「わがままだ」などとバッシングに遭う。ときには、声を荒げて批判する当事者もいる。もちろん、穏やかに話し合えればいいのかもしれない。だが声を上げなければ誰も気づいてくれないのも事実だろう。 「障害をはじめ、理不尽に追い詰められている人たちは、毎日何かしら我慢を強いられていて、それが積もり積もって怒りになっています。でも、なんの不便もないマジョリティの人たちには気づけないのかもしれません。だから『なんでそれくらいで怒るんだ、我慢しろ』と思ってしまう。  もしも目の前に社会に対する怒りを表明している人がいたら、『わがままだ!』と批判する前に、『この人はどうしてこんなに怒っているのだろう』と、その背景にあるものを想像してもらいたい。毎日毎日なにかに我慢をしていて、抑圧され続けてきたのかもしれない。そう考えると、その人の見方が変わるのではないかなと思います」
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「1年半という過程も含めて思い出になった」
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ライター・編集、少女マンガ研究家。スタッフ全員が何らかの障害を持つ会社「合同会社ブラインドライターズ」代表。著書に著名人の戦争体験をまとめた『わたしたちもみんな子どもだった 戦争が日常だった私たちの体験記』(ハツガサ)などがある

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聴こえない母に訊きにいく

コーダである息子が未来に進むために描く、小さな家族の歴史

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