「日本は若者よりも、高齢者を優遇している」って本当?元日銀副総裁がわかりやすく解説
次に、厚生労働省の『所得再分配調査』(’18年版)で、日本の所得再分配政策の特徴を見てみましょう。すると、次のようなことがわかります。
まず、現金給付(生活保護、児童手当、年金など)と現物給付(医療、介護)の合計である「公的受給」が、税と社会保険料(年金、医療、介護その他)の合計である「公的拠出」を上回るのは、65歳以上になります。年金の支給開始が原則65歳であるためです。
次に、公的拠出から公的受給を差し引いた「家計の公的純負担」の割合を見てみると、39歳までは10%程度ですが、40~54歳では17%を超えています。この年齢層は教育費や住宅ローンの返済費などもかかるため、負担が特に重くなっていると予想されます。
一方で、定年後の60~64歳の公的純負担率は1.6%まで下がり、65歳以上になるとマイナスになります。負担率はその後も減り続け、75歳以上の後期高齢者になると、当初所得の約2倍の公的“純受給”があるのです。
ただし、これをもって後期高齢者が豊かであるとはいえません。公的受給はほとんど現物給付の医療と介護(合計131万円 ※所得再分配調査’18年版より)で、さらに、215万円の年金・恩給から医療と介護の自己負担分を賄うと、手元に残るお金はかなり少なくなるからです。
他方、現役世代は定年まで高齢者の扶養のために働いています。その現役世代も高齢者になると、そのときの現役世代に扶養されることになります。少子・高齢化が急速に進む日本で、この仕組みをどこまで維持できるかが、日本が抱える大問題です。
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数
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