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自民党にしかできない「維新対策」<著述家・菅野完>

だが、方途はある

 が、しかし、これはあくまでも「選挙での勝負」しかも「大阪府内という局地戦」の話である。「衆院議席全体で、自民党の議席をどう確保するか」という大戦略の話ではない。そしてそうした大戦略では、自民党だからこそ、自民党ゆえにできる手法で、自民党の手で維新を打ち負かす方途がある。  28議席もある衆院比例近畿ブロックから、大阪府を分離独立させてしまえばいいのだ。  紀伊半島の外、とりわけ東京近郊に住んでいる人には馴染みの薄い話だろうが、近畿地方の比例ブロックは、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県の2府4県をひとまとめにした形で存在している。この点は、比例ブロッックが東京、南関東(千葉、神奈川、山梨)、北関東(茨城、栃木、群馬、埼玉)に分割されている関東地方と大きく違う。近畿全体がひとまとめになっているから「大阪では異常に強い維新」の比例票が、大阪から溢れ出て「それほど維新が強くない、他府県の維新泡沫候補」を、比例復活で救済してしまう結果を生んでいる。東京の有権者にわかりやすく表現すれば、もし関東平野をひとまとめにして一つの比例ブロックとしてしまえば、先の衆院選における東京22区のれいわ新選組泡沫候補・櫛渕万里の復活当選(得票率わずか11・41%!)のような珍事が、千葉、茨城、群馬、埼玉、神奈川の各地で発生してしまうということに相当する。  こうした歪さが、近年、衆院選のたびに比例近畿ブロックで表面化し、小選挙区ベースで考えてみれば、それほど勝っていない維新が、「見た目の議席」を増やしてしまう要因となっている。衆院選特有のメカニズムが生むマジックだ。  実際、衆院比例近畿ブロックは歪なのだ。関東地方における比例ブロックが、人口集中地・東京を独立させているのであれば、紀伊半島における大阪府は比例ブロックとして独立して然るべきではないか(図表参照)。しかも、比例近畿ブロックは、京都・神戸という、大阪とは生活圏的にも、また、文化圏的にも大きく断絶した大都市を内包している。関東地方の比例ブロックで横浜市とさいたま市と千葉市が東京都内と分断されているのであれば、近畿において、大阪と京都・神戸が分断されていなければおかしいはずだ。京都と大阪、神戸と大阪の生活圏的・文化圏的断絶に比べれば、東京都内とさいたま市の生活圏的・文化圏的断絶など、ほぼ無いに等しいではないか。やはり比例近畿ブロックから大阪府を独立させる方が、文化圏的・生活圏的に、自然であるし、関東平野の比例ブロックの在り方と足並みを揃えられ、制度としての公平性を担保できるはずなのだ。 図表

元宿さん、この方策、どうですか?

 前回の衆院選で維新は比例近畿ブロックにおいて10議席を獲得している。一方で自民党は8議席どまり。しかしもし、大阪府を比例近畿ブロックから分離独立させれば、「大阪で異常に強い維新」の票が大阪府から溢れ出し、「他府県でそれほど強いとは言えない維新」を大量に救うことはなくなる。  目下国会では、選挙制度改革に関する議論が進められている。その議論の対象はもっぱら、衆院選における比例代表「並立制」の是非や参院選の合区の是非などの主語の大きなものばかりだ。しかし、比例近畿ブロックから大阪府を分離独立させるぐらいの話であれば、さほど大きな議論など必要ない。公職選挙法を部分改正すればいいだけの話だし、自民党のいまの議席から言えば、目を瞑ってでも片手でやってのけられる仕事だ。維新の反対が予想されるが、ことあるごとに「大阪都構想」などと愚にもつかないことを口走り、なにかにつけ東京と大阪を比肩したがる連中だ、「衆院比例ブロックでも、大阪を東京のように扱いますよ!」とでも言っておけばよい。維新以外の会派には土台、反対する理由などない。自民党と同じく受益者側なのだから諸手を挙げて賛成するだろう。  ここで言葉を改めます。  どうです? 元宿さん(*自民党事務総長・元宿仁氏のこと。党中央において事務方として選挙の全体統括も担当している)。本気で維新の対策を考えるなら、比例近畿ブロックからの大阪府分離独立は、妙手だと思いません? 自民党の党利党略だけでなく、小選挙区比例代表並立制の制度としての公平性を期すという大義名分も立つ。この策、採用されません?  まあ、菅義偉さんの「党外派閥」化している維新をどう扱うかは、確かに党官僚にとっては、極めて頭の痛い政治的難題でしょうけども……。 <文/菅野完 初出:月刊日本2023年8月号
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月刊日本2023年8月号

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