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派遣切りや雇い止めは、なぜなくならない?元日銀副総裁がわかりやすく解説

労働者の生活を守るには

経済オンチの治し方

イラスト/岡田 丈

 第二の問題は、日本の解雇手当が低すぎることです。解雇に関する労働基準法の規定は、解雇の30日前に予告しないときに30日分の解雇手当を義務づけているだけです。大企業で、勤続20年の労働者の退職金に上乗せされる解雇手当は平均して給与の1.3か月分にすぎません。一方で、台湾では勤続20年のモデルワーカーの場合、解雇手当は給与の6か月分です。米国では20年勤続の従業員の解雇手当は平均して8か月分にもなります。このような多額の解雇手当を支給しなければならないことも、会社都合の解雇を抑制します。  したがって、日本は解雇手当のルールを法制化し、国が会社都合で解雇するときのデフォルトの解雇手当水準を設定することが妥当です。経営が破綻するときには、企業は解雇手当を支払えなくなる可能性があるため、解雇手当の原資を社外の独立ファンドに積み立てることを義務づける必要もあります。  以上のように、雇用保険制度と解雇手当の改善を講ずれば、雇い止め・派遣切りは抑制されます。しかし、パンデミックが起きると、少なからずの企業が雇い止めせざるを得なくなります。その場合でも、一時帰休者にも雇用保険が給付され、現在よりもかなり多額の解雇手当を受けることができるのならば、雇い止めされた労働者の生活を守ることができます。
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岩田の“異次元”処方せん
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東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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