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十分な賃上げを実現するには「人手不足経済」をつくるべき。元日銀副総裁がわかりやすく解説

 私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。

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 ’23年の春闘では約30年ぶりの高水準となる平均3.5‌8%の賃上げが実現したと最近報じられました。非正規労働者の賃金も時給ベースで5%上昇しましたが、満足に感じている人は少ないでしょう。十分な賃上げを実現するには「人手不足経済」をつくる必要があります。  人手不足経済とは、企業の労働需要が家計の労働供給を大幅に上回る状況です。この経済では、雇用契約において、労働者のほうが企業よりも強い立場に立てます。企業は賃金を引き上げなければ、十分な労働者を確保できません。  日本では、残業代を支払わないサービス残業や正社員の過労死に至るほどの長時間労働が存在していますが、人手不足経済では、サービス残業や過酷な長時間労働や頻繁な出張などを強いる企業には、労働者が就職しようとしなくなります。非正規社員を正社員よりも賃金や訓練などで冷遇する企業は非正規社員を雇用できなくなります。  つまり、大幅な人手不足経済になってこそ、非正規社員でも働く企業を選択できるようになるのです。
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未活用労働者ゼロの人手不足経済を実現するには
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東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13年に日本銀行副総裁に就任。’18年3月まで務め、日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数

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