ライフ

早朝の歌舞伎町が放つ怪しい光は、まるでキラキラ輝く汚物のようだ

「交縁」の場で複雑な気分になる

 さて、このサウナからTMレボリューションが進んでいくのとは逆の方向に進むと、そこには大久保公園と大久保病院に挟まれた路地が存在する。いわゆる“交縁”と呼ばれる場所だ。    夜ともなると、ここに主に体を売る目的の女性たち、いわゆる「立ちんぼ」が出現し、それを買い漁る男たちでごった返す。あまりに有名になりすぎたこのスポットはいまやそういった目的の人だけでなく、「ちょっと交縁を見に行こうよ」といった観光スポット感覚の見物人やら、わざわざ遠回りして様子を見に来る人や、Youtuberやらでごったがえしている。週末の夜ともなると夏祭りのような賑わいで、真っすぐ歩くこともままならないくらいだ。そのうち出店とか出るかもしれない勢いがある。  この交縁で交渉成立となれば、そのままTMレボリューションが辿る道筋と同じようなルートを辿ってホテル街に移動していけるので、まあ、合理的な配置なわけで、有名になる前は人通りも少なかったので、立ちんぼスポットとして最適だったのかもしれない。  混沌と肉欲、そして様々な思いが交差する夜の交縁だけれども、早朝は早朝で違った顔が見られる。さすがにこんな早朝から立ちんぼをしている人はおらず、それ目当ての人もいない。基本的に人の姿はなく、夜の熱気が嘘のように鎮まりかえっているのだけど、稀にポツンと座っている女の子がいるのだ。  もしかしたらお金が必要なのかもしれない。それでも夜を超えて思うように稼げなかったのかもしれない。単に他に行く場所がないのかもしれない。日が昇ってもそこに居続けるしかなかった。いつしか座りこんでしまう。こんな早朝の時間にここにいるしかなかった女の子のことを思うと胸が締め付けられそうになる。

 立ちんぼを探しに現れたおっさん

「あのー」  そんな光景を眺めていたら、ふいに後ろから話しかけられた。見ると大きな荷物を背負ったおじさんが周囲をキョロキョロしながら人目をはばかるようにして背後に立っていた。 「すいません、この辺がいわゆる立ちんぼエリアと聞いたのですが」  おじさんは、これまた、周囲を警戒しながらヒソヒソと話しかけてきた。言葉のイントネーションが少し訛っていたので、もしかしたら地方から何かの用事でやってきた人なのかもしれない。用事ついでに話題の交縁を見に行くか、となったのかもしれない。あまりに有名になりすぎたので、こういう人はそこそこいる。 「ああ、たぶんそうだと思いますよ」  僕も別に交縁に詳しいわけではないので、曖昧な返答しかできない。 「ぜんぜん立ちんぼいないじゃないですか!」  おっさんはいきなり激昂しだした。怖い。本当にいきなり豹変したから怖かった。僕に言われても困る。 「いや、やはりメインは夜なんじゃないですか、こんな早朝の5時から立ちんぼはなかなかいないかと」  僕も別に詳しいわけではない。ただ早朝の歌舞伎町を散歩しているだけの男だ。 「早朝でもいてくれないと困るんです」  なんでもおじさん、やはり地方から出てきているらしく、これから新幹線と特急を乗り継いで帰るらしかった。その前に、ちょっと話題の交縁を見物するかとなったらしく、地元の仲間にも「見学してくるわ」と自慢してしまったらしい。
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何がなんでも歌舞伎町の土産話を要求してくるおじさん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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