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早朝の歌舞伎町が放つ怪しい光は、まるでキラキラ輝く汚物のようだ

何がなんでも歌舞伎町の土産話を要求してくるおじさん

「みやげ話を楽しみにしている仲間がいるんです! どうしても立ちんぼを!」  そんなこと僕に言われても困る。僕が立つわけにもいかないし。 「もしかしたら、あそこに座っている子は行き場がない感じなのでそうかもしれないし、ただお酒の飲み過ぎで休んでいるだけかもしれません」  さきほどの子を紹介すると、おっさんはさらに怒り出した。 「あれは座っている! 立っていないから立ちんぼではないでしょ!」  そういうもんなのか。 「マサが楽しみにしているんですよ。マサは歌舞伎町への憧れが強いので。インターネットでずっと歌舞伎町のことを調べているんです。二郎とか」  そんな会ったこともないマサのことなんて知らない、と言いたいけど、そうやって一生懸命にネットを調べたりしているマサのことを思うと、なんだか力になりたい気がしてきた。歌舞伎町のこと調べているマサ、なんかかわいいな。 「ああ、歌舞伎町の二郎はここです」  もちろん、早朝すぎて営業していないけど交縁からほど近い場所に歌舞伎町二郎が存在する。1分ほどの移動で到達した。 「そしてこちらが警察24時とかによくでてくる交番です。めっちゃこっち見てますね。たぶん警戒されています」  歌舞伎町の名所を案内してあげると、おっさんはすげえすげえと喜んでくれた。 「あの……話題のジェンダーレストイレは?」  おじさんは言いにくそうにそう切り出した。 「ちょっと歩くけどこっちです。ちなみに廃止が決定したみたいですよ」  歌舞伎町タワーまでいく道すがら、トー横キッズも紹介する。トー横キッズは早朝から動いており、ごみが散乱して映画バイオハザードのラストのシーンみたいになっているところに何人か横たわっている。 「こっちがホテル街ですね」  もう、この周辺は完全に観光地化している。見所が多すぎる。  おじさんは大興奮の様子で、地元のマサに伝える情報をメモしては写真を撮っていた。 「あれは?」 「TMレボリューションの格好をした人です。50%くらいの確率です」

おじさんの心に最も刺さったのは、意外にも

 そんな歌舞伎町の名所の中で、おじさんがいちばん興奮してテンションが上がったのがこちら。 図1 ヘドロ。 「さすが歌舞伎町、ヘドロときたもんだ」 「地元にヘドロはないですか」 「ないですね」  僕らの会話もちょっとよく分からない。 「いやー、マサがヘドロ好きなんですよ。いいみやげになったな」  もうマサがどういうやつか分からなくなってきた。ヘドロ好きというカテゴリがこの世に存在しているとは思わなかった。まさかこんな落書きをありがたがる人がいるとは思わなかった。  自分で案内していて感じたのだけど、交縁やトー横キッズ周辺のややアンダーグラウンドな歌舞伎町は完全に観光地化している。それはおそらく、夜から深夜にかけて見学したほうが、スリリングかつ、望む光景が見られるかもしれない。けれども、早朝の歌舞伎町もそれはそれで爽やかかつ、怪しい光を放っているのだ。そう、朝日を浴びてキラキラ輝くヘドロのような存在だ。 「ありがとうございました。いいみやげ話ができそうです」  手を振って駅へと戻っていくおじさん、それと入れ替わるように、大きな荷物をもった女性が立ちんぼスポットへとやってきた。早朝の歌舞伎町は爽やかなカオスだ。さあ、ここから歌舞伎町の一日が始まるのだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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