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参議院の歪な選挙制度。国会は最高裁判決を真摯に受け止めよ<著述家・菅野完>

都道府県別選挙区の限界

 一方、判決内容は「合憲」でありその判断過程も過去の判示より「後退」した代物であることは間違いないものの、判決文を精読していけば、極めて興味深い議論が展開されているのも事実だ。国会側に「1票の格差を放置し続けることに関する説明責任」を求める宇賀裁判官の見解と、「1票の格差」の不利益を訴える側にこそその不利益の立証責任を求める草野裁判官の見解の相違など、熟読吟味に値しよう。  しかしそうした議論へ立ち入ることは本稿では控えたい。むしろ本稿では、さまざまな意見が盛り込まれた今回の判決の中に通底する「都道府県単位の選挙制度にはおのずから限界があるのではないか」との意見に注目しておきたい。  先に触れたように、今回の最高裁判決は、合区導入によって1票の格差が是正されたことを多とするものだ。言うまでもなく「合区」は「都道府県単位の選挙制度」を前提とするもの。しかし「都道府県単位の選挙制度」を前提にし続ける場合、人口の都市集中が進む限り、「1票の格差是正」のために「合区」をさらに拡大していくより他の手はなくなってしまう。最高裁判決が国会に対し、「抜本的な選挙制度改革」を求めているのはこうした「都道府県単位の選挙制度」の限界を認めているからに他ならない。  当然のことながら、今回の判決文は、「1票の格差」が問われた裁判に対して出されたものであって、「投票機会の均等」が主眼だ。いわば「選ばれ方・選び方の平等」に対しての判決である。そしてその判決の中で、「都道府県単位の選挙制度」が足枷になりつつあると指摘されているのは先に見た通りである。  しかし、「選ばれ方・選び方の平等」ではなく、「選ばれたあとの平等」に目を転じてみると、「都道府県単位の選挙制度」が著しい不均衡を生んでいることに気づくだろう。  「都道府県単位の選挙制度」を前提とする限り、参議院選挙の場合は、どうしても、「完全小選挙区」と「中選挙区」が併存してしまうことになる。すなわち、人口の少ない都道府県を最小の「定数2・改選1」とした上で、人口の多い都道府県の定数と改選数を上げていく必要があるということだ。  例えば、今回の裁判で、有権者が最も不利益を被ったとされる宮城県の場合「定数2・改選1」とされている一方、東京都選挙区は「定数12・改選6」と配分されている。「選ばれ方・選び方の平等」の観点からは、これはある意味「平等」と言えるだろう。宮城県の有権者人口は192万人であり、東京都は1145万人。ちょうど約6倍であり、この約6倍という数字は、議席の多寡と綺麗に足並みが揃っている。  しかし、改選議席数=1の宮城県選挙区が厳格な小選挙区である一方、東京都選挙区が改選議席数が6の中選挙区であることから、選出された議員の「得票率」は大きく違ってくる。今回の裁判の対象となった2021年参院選の結果を見てみると、宮城県選挙区で当選した自民党の桜井充氏は51.9%の得票率で当選している一方、東京都選挙区を見てみると、トップ当選の自民党・朝日健太郎氏でさえ14.7%の得票率にとどまっているし、最下位のれいわ新選組・山本太郎氏に至ってはわずか9.0%の得票率で議席を得ている。  東京都選挙区選出議員の得票率が低すぎることを嗤おうというのではない。宮城県のような極めて厳格な小選挙区選挙である一人区(参院の場合、衆院と違い比例復活がないではないか)から選出される議員と、東京都や大阪府のような中選挙区制度で選出される議員が、全く同じ院に並存することに問題はないのか……と、言いたいのだ。  有権者が選挙の際に候補者に1票を投じるのと同じく、議員も議場で議案や人事案に対して1票を投じる。議員が投じるその1票は、まさに「有権者の付託」だ。しかし、小選挙区選出議員と中選挙区選出議員が同じ議場に並存する場合、小選挙区選出のため51%の「有権者の付託」を受けた議員の1票も、中選挙区選出のためわずか15%の「有権者の付託」を受けた議員の1票も、全く同じ「1票」として扱われる。これが果たして平等と言えるのか、はなはだ疑問なのだ。  こうした不均衡は「都道府県別選挙区」にこだわる限り生まれ続ける。その意味でも、今回の最高裁判決が暗に示した「都道府県別選挙区の限界」というメッセージは厳粛に受け止められるべきだろう。  国会は、その努力を最高裁が多としたことに甘えず、参院選挙改革に真摯に取り組み続けるべきであろう。 <文/菅野完 初出:月刊日本2023年12月号
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月刊日本2023年12月号

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