仕事

中途採用の新人(28歳)を“ウソの悪評”で孤立させる先輩。優秀な若手を潰す問題社員の心理とは

先輩がパワハラをする「真意」は

 また、大津氏は「内田さんがパワハラをする真意をこの事例だけで正確に把握するのは難しいものがありますが、推察できうることはいくつかあります」とも述べた。 「1つは、後輩である溝口さんに何らかの脅威を感じ、自分の立場やポジションを奪われるなどと感じている。もうひとつは、先輩としての立場をはっきり示し、溝口さんに対し、優位に立ちたい、と考えているのかもしれません。マウントをとろうとしている、とも言えるでしょう。  かつて労務相談を受けた中で似ているケースで言えば、中堅のメーカー(社員数500人)に新卒で入社した男性がいたのですが、20代後半の先輩の男性が執ようにいじめをしたのです。皆の前で茶化したり、仕事の仕方の一つずつにケチをつけたりします。先輩風を吹かせていたのかもしれませんね。  新卒で入った男性は当初はおとなしくしていましたが、しだいに反論をします。部員らの前で冷静に、ロジカルに論破していきます。そのほとんどが、正論なのです。数年後には、双方の立場が逆転しているようでした。新卒で入った男性は仕事がずいぶんとできたのです。さらに数年後、いじめをしていた先輩は居場所を失い、退職しました。  私は心情的には、このいじめを受けていた男性に同情し、理解できる一面があります。自らの立場を守るためには先輩に反撃をするのも止むを得なかったのかもしれませんが、このような行為は日常的に頻繁に使うべきではないでしょうね。仮に私が上司として新卒の男性に言うならば、『あなたの姿勢やそのプロセスで言っていることには正しい面があるが、正論を述べるだけでは人は動かない。この路線だけでは将来、あなたがリーダーとなり、組織を担うならばゆきづまる場合がある』と諭すでしょう」

パワハラに依然として鈍い会社は存在

 筆者が最悪の結末と思えるのは、内田氏のような人がやがてはリーダー的な存在となり、部員らを意のままに動かすことだ。口八丁手八丁で、ライバルを蹴落としていくことがまかり通っている。職場の秩序も倫理も、ここにはない。  取材をしているとこういう事例は実際に耳にする。なぜか、数百人の社員の会社ならば役員になっているケースすらある。本来は、上司らが注意指導を繰り返し、なおもパワハラをするならば、会社を辞めさせることを具体的に考えるべきだろう。ところが、パワハラに依然として鈍い会社がある。読者諸氏は、どう思うだろう。 <取材・文/吉田典史> 【大津章敬(おおつあきのり)】 1994年から社会保険労務士として中小企業から大企業まで幅広く、人事労務のコンサルティングに関わる。専門は、企業の人事制度整備・ワークルール策定など人事労務環境整備。全国での講演や執筆を積極的に行い、著書に『中小企業の「人事評価・賃金制度」つくり方・見直し方』(日本実業出版社)など。全国社会保険労務士会連合会 常任理事
ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった…』(ダイヤモンド社)など多数
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