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大事なことは「自分にとっての最適な緊張感」を知ること。調教師・福永祐一の教え

 現役時代に「天才」と呼ばれた元騎手の父・福永洋一が成し遂げられなかったダービー制覇を実現した福永祐一氏。20年にコントレイルで無敗のクラシック三冠を達成。23年にまさに全盛期での引退し調教師への転身を決断。自身の厩舎を開業してセカンドキャリアをスタートさせる。 (本記事は、福永祐一著『俯瞰する力 自分と向き合い進化し続けた27年間の記録』より抜粋したものです)

騎乗に影響!? ファンの欲に翻弄されたことも

競馬

写真/橋本健

 現役中には、ツイッター(現X)や連載コラムを通じてファンの欲とも向き合ったことがあったが、途中で限界を感じてやめることにした。  ちなみに、ツイッターをやっていたのは大昔のこと。お酒を飲みながら書き込んでいたので、ツイッター上でファンとケンカになった(笑)。「これはダメだ」と思い、すぐに閉じたという経緯だ。  大手競馬情報サイトである「netkeiba」では、2014年から約4年にわたりコラムを連載。随時、質問を募集していたこともあり、ファンの欲と向き合うことの難しさを思い知るには十分な時間だった。  馬券を買っている人が求めるのは「3着までにくること」。でも、厩舎やジョッキーといった現場が求めるものは、そればかりではなかったりする。最初は、そういうことも知ってほしいと思ってコラムを始めたが、その認識を擦り合わせる作業は、思った以上に大変だった。  ファンと自分たち現場の人間で最も認識の違いを感じたのは、「勝ちにいく競馬」について。早めに動く=勝ちにいくという認識を持つファンがとても多いと感じたのだが、自分からするとそうではない。あえて動かないことも勝ちにいく競馬の一つであり、何度か「なぜ勝ちにいかなかったのか」というような意見が届き、その都度説明したつもりなのだが、それは伝わりづらいし、理解されづらいことを知った。  そして、これは自分の弱さなのかもしれないが、ファンの声を拾ってしまったばかりに、批判されないようなポジショニングを考えたりして、騎乗にも影響が出た時期があった。まさにファンの欲に翻弄されてしまった例だ。

コラム執筆もストレスになり…

 あとはやはり、表に出る職業とはいえ、自分も感情のある人間。自分のことを悪く言っている意見を目にすると、嫌な気持ちになる。見なければいいと思うかもしれないが、今の時代、それもなかなか難しかった。競馬の奥深さ、本質的な面白さを伝えたいと思って始めたコラムだが、いつしかそれがストレスになっていたことに気づき、“伝える”という役目は2018年に卒業することにした。自分のやるべきことに専念したからか、以降はそれまで以上にジョッキーという仕事に集中できたような気がする。  ただ、間接的とはいえ、ファンとやり取りできたことで、いろいろと勉強になったのも確かだ。やらなければよかったと思ったことは一度もなく、今ではむしろ、一つの経験としてチャレンジしてよかったと思っている。
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自分にとっての「最適な緊張感」を知る
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父は現役時代に「天才」と呼ばれた元騎手の福永洋一。 96年にデビューし、最多勝利新人騎手賞を受賞。 2005年にシーザリオでオークスとアメリカンオークスを制覇。 11年、 全国リーディングに輝き、JRA史上初の親子での達成となった。18年、日本ダービーをワグネリアンで優勝し、父が成し遂げられなかった福永家悲願のダービー制覇を実現。20年、コントレイルで無敗のクラシック三冠を達成。23年に全盛期での引退、調教師への転身を決断。自身の厩舎を開業してセカンドキャリアをスタートさせる
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