ライフ

知っていた人やモノが、いつしか儚く消える。そうやって僕らは歳を取る

カフェオーレだけが消えた原因

写真はイメージです

 ただまあ、異世界に吹っ飛ばされた可能性はかなり低いので、何か理由があるんだろうと調べてみたら、どうやらグリコの基幹システムに起こった障害の問題らしい。  基幹システムの入れ替えに伴って障害が出て、主に乳製品などが出荷できない状態が続いていたらしい。4月からほとんど出荷できない状態が続いており、この原稿を書いている7月現在、やっと一部の商品の出荷を再開できそうと発表されたところだった。  だから見かけなかったと納得するのと同時に、そのような深刻な事態が起こっていたのに何も気づかなかった自身のアンテナの低さを痛感した。ただまあ、カフェオーレだけが存在しない異世界に飛ばされたわけではなくて安心した。  コンビニの陳列棚と言えば過当競争の激しい場所だ。場所が限られているコンビニにおいて陳列されることはその時点で勝ち組である。だから、入荷しない商品の棚を遊ばせておくわけにいかなかったのだろう。グリコ製のカフェオーレが出荷されない、けれどもお前の帰る場所は残しておくぜ、とはならず、すぐに別メーカーの商品が入荷されて棚を満たすようになっていた。だから一見すると何もないように見えていたのだ。

 脳裏に浮かんだ、カフェオーレ絡みの一人の男

 あれだけ大人気だったグリコのカフェオーレであっても、入荷されないとなるとすぐに変わりが補充され、一見すると何も起こっていないように振る舞われ、気付かれない。それはなんだか妙に寂しいものだった。それと同時に、ある一人の男のことが思い出された。  隣の市にあるスロット屋に通っていた時のことだった。そこにはかなりキャラの濃い常連客で満たされている店で、その店の話題を扱った匿名掲示板においても連日連夜、常連たちへの悪口で大盛り上がりを見せているような店だった。  その中でひときわ嫌われている常連客がいた。それが「カフェオレ元帥」という男だった。カフェオレ元帥はけっこう高年齢の爺さんで、その名のとおり、いつもグリコのカフェオーレを手に持ってスロット屋を徘徊しているのだけど、店の常連の誰もがそのカフェオーレを飲んでいるところを見たことがない、という心の底からどうでもいい言い伝えがあった。  飲みもしないのに常にカフェオーレを持っている。しかも使いまわしではなく、まいにち購入した新品を持ち歩いているらしかった。
次のページ
カフェオレ元帥の痕跡はかけらも存在していなかtt
1
2
3
4
5
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事