ライフ

知っていた人やモノが、いつしか儚く消える。そうやって僕らは歳を取る

左遷の話題しか出ない変な店

 とりあえず、カフェオレ元帥の姿は見えない。カフェオレを手にもっているような客もいない。ただ探すだけでは絶対に見つからないので、聞き込みをすることにした。  僕はタバコを吸わないのだけど、喫煙コーナーに常駐し、そこに来た人に「今日は全然でないっすね」「今日はイベント日みたいなのに弱いですね」みたいな感じで片っ端から話しかける。  常連ぽい人たちから返ってくる答えは「前の店長が左遷されてからすっかりでなくなった。いまの店長は早く左遷されてほしい」というものばかりだった。なぜかこの店では「左遷」が強い言葉になっている。ネットでも喫煙所でも左遷のことしか言及されない。なんなんだ、この店。 「こういう感じでカフェオレのパックを持っている老人を知りませんか?」  近くのコンビニで購入してきた別メーカーのカフェオレを見せながら聞き込みを開始する。ただ帰ってくる答えは一様に「わからない」「知らない」というものだった。   やはりもうカフェオレ元帥はこの店に存在しないのか。あるいはもう、この世にも……。などと考えていると、一人の常連客から希望のような話をきけた。 「あ、その話、きいたことある」

カフェオレ元帥の消息がわかりかける

 それは、まあまあなおばさんなんだけど、けっこう攻撃的な髪形をした女性で、ド派手な感じの服装が印象的な人だった。 「私は見たことないけど、そういう常連がいたってきいたことがあるよ。ずっとカフェオレ持ってる人でしょ? なんかそのカフェオレが破裂したかなんかでスロット台が台無しになって出禁になったってきいた」  なんてことだろうか。カフェオレ元帥は、そのカフェオレのパックで台をキープする爺さんだったのだけど、どうやらそれが破裂してトラブルになったらしい。 「でも出禁に納得いかないその常連がさんざん店に嫌がらせをして、前の店長が左遷されたみたい」  なんでこの店の常連は「左遷」しか口にしないんだ。ただ、カフェオレ元帥が原因で前の店長が左遷されてしまったようだ。店に嫌がらせとかとんでもない爺さんだな。  もうカフェオレ元帥は存在しない。その老人自身はまだご存命で、変わらず他の店に通っていたとしても、この店で名を馳せたカフェオレ元帥という存在自体はもうこの世には実在しないのだ。それはなんだか寂しいものだった。
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カフェオレ元帥の代わりはいる。そう考えると寂しくなった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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