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最近、とある元非合法地帯を探索してみた記録。かつての面影は消えどその空気は絶えず

突然の戦闘民族とのエンカウントに慌てふためく僕

 もしかしたら、ひっそりとあるかもしれないと裏通りを探索したけど見つけることはできなかった。  さて、K市にはもう一つのちょんの間地帯だった場所がある。ここから徒歩で15分くらいの場所だ。こんな至近距離に2つのちょんの間地帯があるなんて、と驚くのだけど、識者に言わせると、どうやらこの2つはその成り立ちというか歴史が異なるらしい。こちら側の方は遊郭などを起源とするちょんの間という説があるようだ。  どうやら、そのもう一つの地帯の方も、先ほどではないにしろ風俗街に混在するタイプらしい。その風俗街はすぐに見つかったけれども、その周辺には、ちょんの間の面影みたいなものは見られなかった。  少し離れた場所にあるのかもと裏通りなどを探すけれども、やはり見当たらない。こちらも完全に消滅してしまったのだろうかと思って、奥に奥に路地を進んでいくと、いきなり話しかけられた。 「兄ちゃん、さっきからウロチョロしてるけど、なに探してるん?」  明らかに戦闘力の高そうな民族だ。どうやらそれっぽい本職の方の総本山みたいなものが近くにあるらしく、やたらと戦闘民族が道路上に屯している一角があるようなのだ。めちゃくちゃ監視カメラとかあって物々しい場所だった。  後から調べたら、その場所はそうやって戦闘民族が常に屯っていて、通行人を威嚇することで有名らしい。検索したら、わざわざそこに戦闘民族を煽りに行って酷い目に遭うYouTuberの動画などが出てきた。  やばい。返答を間違えたらひどい目に遭う。 「いえ、ちょっとまあ」  返答を濁す。それでも戦闘民族は引き下がらない。  そのお方の眼差しなどを見ていると、スマホと睨めっこしながらキョロキョロと周囲を徘徊している僕のことを完全に怪しんでいた。というか煽りに来たYouTuberみたいに思っているっぽい。徘徊している理由を言わないと許されない、みたいな雰囲気があった。 「ちょっとM町を探しているんですけど地図が読めなくていまいちわからなくて」  M町とはかつてちょんの間地帯だった場所の住所だ。覚えててよかった。なんとか取り繕えた。  しかしバトルサイボーグは引き下がらない。 「ここがM町や」  ここもM町だったかー! ちょんの間地帯からまあまあ外れているから違う町だと思ったのに。 「M町のなにを探しに来たんだ」  完全に怪しまれている。絶対に煽りに来たYouTuberだと思われている。完全に疑われている。

形はなくなれど、土地の熱気のようなものは健在だった

 ここは正直に「ちょんの間」の跡地を探しに来たと言うべきではないだろうか。ただ、そうなると、ちょんの間の跡地を探すのが趣味という微妙に伝わりづらい趣向を説明しなくてはならない。そういう僕の心中の機微みたいなナイーブな感情、このバトルサイボーグに伝わるとは思えない。  というか、はあん?ちょんの間の跡地探し、あれか、そういうマニアックな動画を撮ってるんか、おまえYouTuberだな!煽りに来やがったか!となる可能性すらある。  ここは、ただの風俗好きが風俗店を探しに来た設定で行くしかない。 「ドゥフウ、拙者、風俗店を探しに来たでござるよ!」  なぜか僕の中で「風俗好き」っぽい口調にしなければ疑われて殺される、と訳の分からんことになっていたので、本当に謎の口調になってしまった。こんな口調の風俗好き、いない。  というか、このふざけた口調、完全に煽りにきている。煽りに来たYouTuberそのもの。いや、YouTuberがどんなものか知らないけど、とにかく完全に怪しすぎる。殺される! 「風俗店ならまっすぐ行って曲がったところだわ。オススメはXXXXだぜ」  けっこう親切だった。 「まじすか!拙者、ワクワクしてきたっちゃ」  俺ももう感情が複雑に入り組んで訳のわからない口調になっている。  こうして、戦闘民族からの疑いは晴れて解放され、そのオススメの店を探すふりをしつつ路地などを探したのだけど、やはり、ちょんの間の跡地らしきものは見当たらなかった。もしかしたら完全に消滅したのかもしれない。  ちょんの間の跡地を巡って、非合法だった地帯に思いを馳せたい。そう願って巡っているのだけど、やはりそのほとんどが、なにも感じられないくらいに跡形もなく消え去っている。もう、そこにかつての残り香は存在しない。  ただ、別の意味で“なにか”は残っていて、相変わらず表立って営業している風俗街は健在だったりするし、訳の分からない戦闘民族が通行人に絡んでくる意味不明な熱気も存在するのだ。ここにはそんな魔力的な何かがあるのかもしれない。  ちなみに、戦闘民族がオススメしてくれた風俗店、XXXXという風俗店、客を呼び込めるようにドアが開け放たれていて、その隙間から中に貼られていたセクシーなポスターが見えていた。  そのポスターは色っぽいお姉さんがケツ丸出しで誘うようにして寝転んでおり、完全に「ドアを開け放ちケツ丸出しで寝ている女性も」というタイトルが頭に浮かんでしまった。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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