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<漫画>「夫が突然殺された」女性漫画家に聞く、当時の心境「警察官の鋭い目つきが、まるで私を疑っているように感じた」

「自身が殺される」と、はっきりと口にしていた

――村崎さんは、ご自身が殺害されるのを予言していたという話も出てきますが……。 森園:そうですね。事件の犯人は精神科病院に入院歴もある男性だったのですが、そうした方に殺されるというところまで、はっきりと口にしていました。事件の数日前、それこそ村崎がいう「電波」が飛んできたときです。 ――不思議な話ですね。村崎さんが亡くなったあと、イタコを訪ねて事件の当時について聞いたと漫画には描いてありましたね。 森園:そうなんですよ。心神耗弱者が犯した罪については原則非公開で裁判が進められることが多いため、遺族といえども教えてもらえないことが多くて。2016年7月23日、ちょうど村崎の7回忌にあたる日に、青森県のイタコさんのもとへ出向きました。イタコさんは、「村崎さんは自分の血しぶきを見ていて、『きれいだな』と思っていた」と言っていて、何となく村崎ならそんなことを言いそうだなと感じました。 ――刑事司法の壁に阻まれて情報が出てこないから、ご遺族としては歯がゆい思いをしますよね。 森園:はい、相手方の情報を知る術がないため、苦労しました。実はこれはオープンな場で話したことがないのですが、民事裁判の準備のために探偵を雇ったこともありました。探偵は非常に優秀ですね。そこでさまざまなことがわかり、どのくらいの損害賠償を請求するかなどの見通しが立てられました。結果的には、裁判はせずに示談になったのですが。

「どうしてこんなことになったのかな」と…

――村崎さんの死後、彼をよく知る人の寄稿やインタビューをまとめた『村崎百郎の本』(2010年、アスペクト)が刊行されました。そのなかで、高校の1つ後輩である京極夏彦さんが語っているように、学生時代の村崎さんは空手部でならした相当な体躯の持ち主だったようですね。 森園:そうなんです。上背は日本人男性の平均くらいだったものの、体重も最高で120キロくらいあったのではないでしょうか。最も痩せたときでさえ、100キロは超えてたと思います。もちろん腕力も強い。加害者は凶器を持っていましたが、どうしてこんなことになったのかなと思う気持ちもあります。どこかで、「電波」の予言を受け入れていたのか……今となっては全然わからないですけどね。 ――森園先生は漫画家という表現者ですが、事件前後で、ご自身の作風や作家としての主張に変化はありましたか? 森園:うーん、それがないんですよね。もちろんあの事件は私の根幹を揺るがすものであり、さまざまなことを感じました。しかし私の表現がまったく変わってしまったというようなことはありません。ただ、村崎が原作を努めてくれた作品はどれも好きだったので、彼と一緒ににはもう仕事ができないんだなと思うことがあります。
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「遺族の心のケア」に特化している組織が少ない印象
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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