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江戸時代の遊女にまつわる“間違ったイメージ”とは? 悲劇だけではなかった/『禁断の江戸史』より

江戸時代には年季明けや身請けされた遊女が差別されていなかった

遊女 ちなみに、ツュンベリーの記録に登場する禿というのは、10歳以下の少女のこと。少女たちはたいていが親に売られて遊郭にやってくる。はじめは見習いとして遊女たちに付き添い、さまざまな雑用を担い、やがて少女自身も遊女になっていった。 「幕府は、業者による人身売買を基本的に禁じていましたが、親が娘を売る行為は認めていました。それは外国人にとっては驚くべきことだったようです。ツュンベリーも『両親が貧しくて何人もいる娘を養えない場合に、娘が4歳を過ぎるとこの種の家の主人に売る』と述べています。  その一方でツュンベリーは、『幼女期にこのような家に売られ、そこで一定の年月を勤めたあと完全な自由を取り戻した婦人が、はずかしめられるような目で見られることなく、のちにごく普通の結婚をすること』を、奇異に感じていました。  年季明けや身請けされた遊女が差別されていないことを、西洋の売春婦と比較して驚いていたようです。いまの日本では、風俗産業で働く人びとは差別を受けています。だからこそ、その事実を隠そうするわけですが、江戸時代はそんなことはなかったんです」

日本にいた外国人は、きちんと日本の遊女文化を理解していた

 幕末に来日したイギリス公使・オールコックも、日本人は「親子の愛情が欠けていることはないようである。子供を愛する器官(もしそんな器官があるとすれば)はまったく大いに発達しているように思える」(山口光朔訳『大君の都 幕末日本滞在記 下』岩波文庫)と述べている。 「それなのに『父親が娘を売春させるために売ったり、賃貸ししたりして、しかも法律によって罪を課されないばかりか、法律の認可と仲介をえているし、そしてなんら隣人の非難もこうむらない』ことに、オールコック大いに驚いていたようです」
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日本の遊女は軽蔑すべき仕事ではない
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歴史作家、多摩大学客員教授、早稲田大学非常勤講師。 1965 年、東京都生まれ。青山学院大学文学部史学科卒業。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学。歴史書籍の執筆、監修のほか、講演やテレビ出演も精力的にこなす。『教科書に載せたい日本史、載らない日本史』『日本史の裏側』『殿様は「明治」をどう生きたのか』シリーズ(小社刊)、『歴史の真相が見えてくる 旅する日本史』(青春新書)、『絵と写真でわかる へぇ~ ! びっくり! 日本史探検』(祥伝社黄金文庫)など著書多数。初の小説『窮鼠の一矢』(新泉社)を2017 年に上梓。

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