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「入れ墨で肌をもっと可愛くしたい」“高校を特待生で卒業した女性”が20歳で入れ墨を彫るまで――仰天ニュース傑作選

入れ墨の絵柄は「彫師に任せている」

氷華さん

入れ墨のおかげで人前に立てるようになったのだという

 20歳を過ぎた頃、氷華さんは尊敬する彫師のもとを訪れ、最初の墨を入れる。彼女にとって、入れ墨とは何なのか。 「おそらく、肌を見られることに抵抗があって、入れ墨で彩ることによってやっと人の前に立てているのだと思います。くわえて、私はインドアの根暗で収集癖があるんです。できるならば好きなものに囲まれてこじんまりと暮らしたい。絵も好きなので、気に入ったタッチの彫師さんの絵を、身体にコレクションしていく感覚なんだと思います。ちなみに、私の方から細かい絵の指定はしません。好きな彫師さんがそのときに私の身体に入れたいと思った絵柄を足してもらうことにしています。私の肌は、入れ墨によってどんどん可愛くなると思えるんです。私にとって入れ墨は、そういうポジティブな思いの表象なのかもしれません」

明け方の“場末のBar”で思わぬ出会いが

 現在の職業である女王様へ導かれたのは、大学進学を棒に振り、いくつかの職を転々としていたときだ。 「サービス業をしていた時代、ライバル店にいたカツキさんという男性がいました。不思議な関係で、ライバルで始まった関係なのに友人でもあるという、腐れ縁です。2017年くらいのことだったと思いますが、彼がBarを出すというのでそこで働くことになりました。大阪では有名な、三ツ寺会館という、場末のなかの場末です。  その店は始発前後の時間になると毎回、スタイルの良い、セクシーなお姉様が数名で来店されるんです。驚いたのは、そのうち居合わせた客を即席の縄で縛り上げたり、いろんな“プレイ”が始まりました。カツキさんに聞くと、彼女たちはSM嬢だとわかりました。私は素直に、『かっこいいお姉さんたちだなぁ』と憧れました。するとお姉様たちも、『SMに興味あるの?』と水を向けてくれました。  ここまで入れ墨を彫っておかしな話ですが、私は痛がりだし怖がりだし、きっと叩かれるのは向いていないと思ったんです。そこで、女王様の道に進むことにしました」
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洋服より、食事より、入れ墨で肌をもっと可愛くしたい
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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