更新日:2025年01月21日 19:02
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増殖するタワマンで駅の利用者数が激変し、鉄道会社のビジネスモデルは根底から崩壊…JR京葉線が“通勤快速全廃”した事情を読み解く

各県に広がっていった「通勤圏の拡大戦略」

鉄道がつなぐ昭和100年史

臨海部を走る京葉線の電車(撮影:小川裕夫)

通勤圏の拡大は、京葉線だけに起こった現象ではありません。東京圏では東海道本線・東北本線(宇都宮線)・高崎線でも快速・通勤快速による通勤圏の拡大が図られています。 こうした経緯を見ると、JR東日本が取り組んでいた通勤圏の拡大戦略は千葉県のみならず、神奈川県や埼玉県、茨城県、果ては群馬県・栃木県・山梨県・静岡県にも及んでいました。 しかし、東海道本線・東北本線・高崎線の通勤快速は令和3(2021)年3月のダイヤ改正で廃止。東海道本線・東北本線・高崎線の通勤快速の廃止は、沿線自治体からの強い反発もなく、世間から注目を集めることはありませんでした。 JR東日本千葉支社は以前から京葉線を走る通勤快速の運行本数を段階的に減らしていました。通勤快速の運転本数が減っても、特に沿線自治体や利用者から反発は出ていません。      そうした事情を踏まえて、通勤快速の全廃に踏み切ったのです。 通勤快速が全廃されると、内房線・外房線の利用者はそれまでより通勤時間が20分ほど増えます。20分早く家を出れば済むという話ではありません。子供を保育園へと預けてから通勤していた親にとって、20分早く家を出ても保育園が開いていません。保育園に子供を預けられなければ、東京へと通勤するというライフスタイルは成り立たないのです。

タワマンが招く鉄道利用者急増の弊害

京葉線の通勤快速は通勤圏の拡大に寄与し、それはJR東日本の収益拡大にも結びつきました。それにもかかわらず、なぜJR東日本千葉支社は京葉線の通勤快速を全廃させたのでしょうか JR東日本千葉支社は、京葉線の通勤快速全廃と朝夕の快速廃止の理由に「通勤快速を各駅停車へと置き換えることで、列車の利用者を平準化させること」「各駅停車の運転本数を増やすことで、快速が停車しない駅の利便性を高めること」「通勤快速や朝夕の快速がなくなることで通過待ちがなくなり、各駅停車の所要時間が短縮できる」の3点を挙げています。 JR東日本千葉支社が挙げた3点のうち、もっとも注目された理由が1番目の「利用者を平準化させる」でした。 京葉線は貨物専用線として計画されたという歴史があります。旅客運転を開始した直後は、沿線に倉庫や工場が多く点在していました。住宅が少ないこともあり、京葉線の区間だけでは通勤需要の拡大が難しいという事情がありました。そのため、直通運転をしている内房線や外房線で通勤需要を増やす必要がありました。 しかし、平成17(2005)年頃から都心回帰が鮮明になり、東京近郊にタワーマンション(タワマン)が増え始めていったのです。タワマンの隆盛は神奈川県川崎市から始まります。川崎市は臨海部に大規模な工場が多く操業していましたが、これらの工場は平成期に地方へと移転していきました。 その広大な跡地にタワマンが次々と建てられていきます。そうしたタワマンの影響で川崎市、特に武蔵小杉駅の周辺は局地的に人口を激増させたのです。
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遠方に電車を走らせることが“非効率”に
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フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーに。首相官邸で実施される首相会見にはフリーランスで唯一のカメラマンとしても参加し、官邸への出入りは10年超。著書に『鉄道がつなぐ昭和100年史』(ビジネス社)、『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)などがある Twitter:@ogawahiro

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