「金髪につけ鼻」という扮装は人種差別なのか?【鴻上尚史】
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
とうとう、全日空のCMが放送中止になったみたいです。オンエアされたのは結果的に数日間でしたから、見た人は少ないのでしょうか。
羽田空港発の国際線が増便されることをPRするCMで、西島秀俊さんとバカリズムさんがパイロットに扮し、英語で会話します。
西島さんが「ハグしようか?」と問いかけるとバカリズムさんが恥ずかしそうに黙り、西島さんが「日本的なリアクションだな」と言うと、バカリズムさんが「日本人ですから」と返す。
それに対して西島さんが「日本人のイメージ変えちゃおうぜ」と言い、画面が切り替わると、バカリズムさんが「もちろん」と言いながら、金髪のカツラをかぶって、高いつけ鼻をした姿に変わっているというものです。
このCMに対して、日本在住のある外国出身女性は、フェイスブックの全日空のページに「たった今、ANAの新しいCMを見ました。本気なの? ANAはこれが問題ないと思っているんですか!?」と英語で書き込んだそうです。
また、ツイッターにも都内在住の外国出身者から「もし、あなたが外国人で日本への旅行を計画しているなら、ANAのように公然と人種差別をする航空会社を使っては駄目。日本でのCMを見て」との投稿があったと言います。
18日にオンエアが始まり、20日にこの書き込みがありました。ネットニュースによれば、全日空は、外国人を中心に新CMへの苦情が寄せられていることを認め、不快感を与えたことについて個別に謝罪するとともに、問題提起に対し謝意を伝えていると述べたそうです。
つまりは、個別に、自分たちの考え方を伝えた、ということです。それが、じつにタフでなおかつ理性的でいいなあと思っていたのですが、やっぱり、CMという人々の好感度と商品販売の立場から、中止にするしかなくなったようです。
◆ 「人種差別だ!」という金科玉条
つまりは、日本人が金髪のカツラをかぶり、高い鼻をつけることが、「人種差別的だ」というクレームを受け付けた、ということです。
けれど、一般的な日本人の感覚からすれば、金髪につけ鼻を「人種差別だ」と言われたら、いったい、なにをどーすりゃいいんでしょう、という気持ちになります。
日本や韓国、つまりはアジアの整形手術では、鼻は高くするものです。けれど、欧米では、鼻が高すぎて、「まるで魔女のようだ」と言われて、低くする整形手術が一般的です。というか、鼻を高くする手術はほぼないと言っていいでしょう。
そういう視点から見れば、「高い鼻」は、欧米人への差別と感じるのかもしれません。けれど、あなたも僕も、これは差別どころか、逆に欧米への媚びへつらい、日本人としての自虐ネタだと知っています。
それがわからないのは、このCMの文脈が理解できない、日本在住の外国人だけです。
文脈を理解せず、ただ、見た目で「金髪につけ鼻」という姿を抗議するのは、相手の文化を理解しようとしない立場です。
自分の文化が絶対的に正しくて、その基準によって、あなたの振る舞いを不快に感じると断じる文化なのです。
なおかつ、この抗議が不毛なのは、このCMが欧米に憧れる日本人向けのCMだからです。これが、欧米でオンエアされる、外国人向けのCMなら、まだ外国人の文脈で判断してもいいでしょう。でも、そうではないのです。
全日空は、内容を一部修正し、第2弾として放送する予定だそうです。けれど、このレベルのギャグがCMとはいえ抗議され、差し替えられてしまうのなら、いったい、テレビにおける表現とはなんだろう、と考え込んでしまいます。
いつのまにか、ネットのニュースでは、「抗議が殺到」と、ものすごく集中したみたいに書かれています。いったい、何件の抗議があったのか、「殺到」と書く以上、数百件の抗議はあったんだろうな、せめて、50件以上はあったんだろうなと、日本人が書いたであろうネットニュースに突っ込みたくなります。
ネットでは、「これは、在日外国人を名乗ったJALの陰謀じゃないのか」という書き込みがありました。思わず笑ってしまいました。
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