松本まりか「はじめてのチュウ」は“音痴だからいい” 歌ヘタ女優たちの魅力
文/椎名基樹
松本まりかが、サントリー「鏡月焼酎ハイ」のCMで歌う「はじめてのチュウ」の破壊力が凄い。実に堂々とした音痴っぷりである。鼻にかかったその声は、往年の音痴女優・紗栄子を思い出した。だが、女優がCMで歌う歌は、これぐらい調子っぱずれの方が印象に残る。特にアルコール類のCMには、楽しげでぴったりてある。
松本まりかはCMの撮影現場で「聴いているスタッフの皆さん、ズッコケ~ってなっちゃうかもしれないけど、大丈夫ですか?」と尋ねたという。確かに「ズッコケ~」となりました。ニヤけながら。それにしても「ズッコケ~」って……(笑)。若年アイドルが、決して持ち合わせない、松本まりかのボキャブラリーもまたすばらしい。
昨今、女優に懐メロを歌わせるCMがトレンドになっている。それらを見ると、最近の女優は非常に歌がうまいことを、改めて気づかされる。高畑充希が歌う、X JAPANの「紅」、杏は尾崎豊の「僕が僕であるために」、満島ひかりは中島みゆきの「ファイト!」、有村架純が歌うTHE BLUE HEARTSの「情熱の薔薇」、上白石萌歌はCharaの「やさしい気持ち」など、皆、非常にレベルが高い。ただ、歌唱力がある女優だけがCMで歌うとなったら非常に寂しい。
CMは歌唱力を競う場ではなく、インパクト勝負であるから、「下手だからこそ価値がある」と言う逆説が成り立つ。女優が調子っぱずれな歌を披露するだけでコミカルである。そして、何より可愛い。コミカルで可愛いものには親しみが湧く。それはCMにおいて、最大の武器になるのではないだろうか。
’80年代、’90年代までは、女優は並行して歌手活動も行っており、大胆にも彼女たちはCDデビューを果たしていた。そうした慣習のおかげで、沢口靖子、吹石一恵など、伝説的な音痴女優が誕生した。
現在ではCDが売れないせいなのか、女優や事務所関係者が「気づいてしまった」ためなのか、女優が無差別に歌手デビューする事はなくなってしまった。しかし私は音痴な歌が聞きたい。音痴な歌の天然の面白さ、可愛いらしさは他に変えがたい。音痴女優の存在を絶えさせてはならない。音痴がセールスポイントともなるCMは、女優の調子っぱずれな歌が聴ける最後の砦である。
高畑充希、杏、有村架純…CMで歌う“歌ウマ女優”たち
CDデビューもした伝説の音痴女優
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1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina
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