止まらない大気汚染で中国経済は窮地に。地価下落、工場操業停止、治安悪化も
中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
大気汚染の悪化が止まらない。北京市や上海市、東北部の各都市では、ここ1か月の間で、深刻な大気汚染による煙霧に覆われている。責任追及を恐れ「知らんぷり」を決め込む当局は、今にいたるまで警報やPM2.5濃度の最新値を発表していない。ところが、経済への打撃は確実に深刻化している。
すでに中国各地では、大気汚染による視界不良から、空港や高速道路の閉鎖が相次ぎ、物流にも大きな影響が出ている。『鳳凰網』(3月3日付)によると、東北部の農業地帯では、農作物の不作や成長不良が多発しているという。末期的な大気汚染による、日照り不足や気温の低下が原因だという。
上海市からほど近い、江蘇省南通市の自営業・米岡敬さん(仮名・30歳)も話す。
「レンズや精密機器の生産工場では、粒子状物質の製品への混入が増えており、歩留まりが低下して収益性が低下しているらしい。PM2.5の濃度が高い日は、業務用の空気清浄機も役に立たず、操業を停止するところもあるそう」
さらに中国に進出する日本企業の一部では、大気汚染による健康被害の危険性を鑑み、駐在員の「危険手当」の増額を検討するところも出ており、大気汚染の影響がコストとして具現化し始めている。
上海市中心部も、大気汚染による経済的打撃を免れない。同市在住の旅行会社勤務・向井典明さん(仮名・40歳)の話。
「大気汚染により、上海市の観光資源のひとつだった夜景も、ほとんど見えなくなった。その影響で観光客が激減しており、夜景を売りにしていたホテルや飲食店は閑古鳥状態です。市内一、不動産価格の高い外灘や浦東のテナント料も、外国人投資家などが手放し始め、下落傾向にある」
一方、北京市では「煙霧出費」が、市民の家計を逼迫するほどに増大している(『北京晩報』2月26日付)。室内用はもちろん、車載用の空気清浄機やそのフィルター、高性能マスク、呼吸器疾患への医療費など、大気汚染がもたらす予想外の出費も大きい。
経済以外では、治安への影響も表れ始めている。杭州市在住の留学生・安達美香子さん(仮名・25歳)はこう証言する。
「大気汚染による視界不良に便乗した、ひったくりや路上強盗が続発しているそうで、地元警察が注意を呼びかけていました。汚染レベルが高い日は、視界が10m未満ですから、闇夜と同じような状態。犯人も霧に紛れて行方をくらませやすいし、白昼であっても人通りの少ない場所の一人歩きは怖い」
一向に改善されない中国の大気汚染問題に関し、「トラブル孫悟空」でおなじみ、中国人ジャーナリストの周来友氏はこう話す。
「中国当局は、1兆円規模の予算を組んで大気汚染の改善に取り組んでいますが、製造業の生産性や収益性の低下を恐れ、汚染源への規制強化など抜本的な対策には及び腰です。こうしたなか、中国の富裕層の一部は、大気汚染を嫌って海外逃避の準備も進めている。特に中国から近い日本は、大気汚染が悪化した際の緊急避難先の“セカンドハウス”として注目されており、彼らが不動産物件を買い漁る動きもすでに出ている」
大気汚染の悪化は、日本への飛来だけでなく、違う種類の新たなリスクをもたらしつつあるのだ。 <取材・文/奥窪優木>
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