人間の善と悪とは? 社会起業家とフォトジャーナリストが問い続ける
―[鬼丸昌也さんが新刊]―
新刊『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』(扶桑社刊)を上梓した、NPO法人テラ・ルネッサンス創設者で理事を務める鬼丸昌也さん。
地雷除去、元子ども兵の社会復帰支援、大槌復興刺し子プロジェクトなどに取り組み、国内外で注目を集めている社会起業家が、同じ立命館大学出身で、世界の紛争や貧困の現場に出向き、写真をとおして伝えているフォトジャーナリスト・渋谷敦志さんと、残酷な運命がもたらす「人間の善と悪」について語り合った。
⇒【前編】「世界は変えられる!社会起業家とフォトジャーナリストが現場で学んだ『伝える技術』」https://nikkan-spa.jp/654733
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鬼丸昌也(以下、鬼丸):僕は、状況によって人間は善にも悪にもなると思っていて、性善説も性悪説も信じていないのですが、渋谷さんはどうですか?
渋谷敦志(以下、渋谷):鬼丸さんの本にも、子ども兵の悲惨な体験が描かれていますが、僕も今まで世界中で様々な問題を取材してきて、人はここまで人に対して残虐になれるのかという現実も見てきました。そのせいか、僕にはある種の強い「あきらめ」があるんです。絶望というより、もうあきらめですね。
鬼丸さんも、アフリカやアジアで、人間の残酷さを目の当たりにしてきたのではないですか?
鬼丸:ええ。残酷さもさることながら、人は、善と悪の狭間で生きていると感じることが多かったです。
たとえば、ルワンダやブルンジでは、政変によって、ある日急にひとつの村が敵と味方に分かれ、普通のおじさんがそれまで近所づきあいしていた隣家を襲撃するというようなことがたくさん起こりました。また、本ではカンボジアのポル・ポト派がおこなった大虐殺にも触れましたが、ポル・ポト派の兵士は家に戻れば善良なお父さんだったりしたんです。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=654752
渋谷:きっと、彼らはある時点で、自分で考えたり感じたりすることを、やめてしまったんじゃないでしょうかね。誰もが心に持つ感受性のスイッチをオフにしてしまったというか……。僕たちも含めて、人にはそんな弱さがあると思います。
鬼丸:僕も、時代や政治背景によって、何をもって悪とし、善とするかは変わるんだと痛感しました。だからこそ、ひとつひとつのおこないの善悪を、自分自身で問い続けるしかないんだなと思っています。
渋谷:人間らしさを維持するセンサーって、努力して磨き続けないとすぐ感度が悪くなるんですよね。自分のことだけ考えていたり、政治や社会で起こっていることは自分とは関係がないと思っていると、人間は悪というウイルスに感染しやすくなる気がします。
だからこそ、鬼丸さんの言うように、自分の頭や自分の言葉で考えることが大切になってくるし、みんなが自分自身で考えだしたら、たとえ世の中が悪のほうへ進んだとしても、すごい抵抗力になるはずです。
鬼丸:そのストッパーが効かなくなると、ヘイトスピーチに見られるように、人種差別が助長されたり、「自分たちさえよければ」という考え方で行動したりしてしまいますよね。
渋谷:アフリカやアジアだけでなく、日本にも過去にはそんな歴史がありました。人間の本質って、そんなに変わらないし、進歩しているとも思えません。でも、基本的に人って弱かったりずるかったりする特性を自覚して、ネガティブな思惟を増幅しないようなシステムをみなで構築しながら、自分を見失わないように律していくことができる、そんな人間と社会のあり方、Beingがあるんじゃないかと思うんです。
鬼丸:人はやすきに流れるものだと自覚して、自分を律していくことが必要ですよね。そういう意味で、渋谷さんも僕も写真や講演を通して、常に自分に問いかけられるのはありがたいですね。
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【鬼丸昌也(おにまる・まさや)】
NPO法人テラ・ルネッサンス理事・創設者
1979年、福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。高校在学中にスリランカのアリヤラトネ博士(サルボダヤ運動創始者)と出会い、「すべての人に未来をつくりだす能力がある」と教えられる。
2001年、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。
同年10月、大学在学中に「すべての生命が安心して生活できる社会の実現」をめざす「テラ・ルネッサンス」を設立。
2002年、(社)日本青年会議所人間力大賞受賞。地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演活動は、学校、企業、行政などで年に100回以上。遠い国の話を身近に感じさせ、すべての人に未来をつくる力があると訴えかける講演に共感が広がっている。
●テラ・ルネッサンス 公式ホームページ http://www.terra-r.jp
【渋谷敦志(しぶや・あつし)】
高校生のときに戦場カメラマン・一ノ瀬泰造の著書に出会いカメラマンを志す。立命館大学大学在学中にブラジルに渡り、法律事務所で研修する。卒業後、フリーのフォトジャーナリストとして活動開始。1999年MSFフォトジャーナリスト賞、2000年日本写真家協会展金賞、2003年コニカフォトプレミオ、2005年第30回「視点」賞および30回記念特別賞、2006年第31回「視点」奨励賞など。共著『ファインダー越しの3.11』(原書房)、『シャプラニール流 人生を変える働き方』(藤岡みなみ、2025 PROJECT、 渋谷敦志著、エスプレ)。
<構成/江藤ちふみ、写真/渋谷敦志>
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