ド田舎に家を建てて犬といっしょに暮らしているノートン――フミ斎藤のプロレス読本#027【ロード・ウォリアーズ編エピソード12】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
スコット・ノートンはものすごい田舎町に住んでいる。なにがものすごいのかというと、いくら耳をすませてもどこからもなんの音も聞こえてこないことだ。
夜になると、鼻からスースー息を吸ったり、シャワーを浴びたり、冷蔵庫からビールを取り出したりしているのはこの地球上で自分ひとりなんじゃないかと錯覚してしいまうくらい静かなところである。
でも、人里離れた山奥で仙人のような暮らしをしているのかというとそうではない。ノートンが住んでいるキャマスという町は、オレゴン州とワシントン州のちょうど州境にあたる。
広いハイウェイ沿いにはガス・ステーションがいくつもあるし、大きなスーパーマーケットやそれなりのショッピング・モールもあることはある。
人口もじっさいには2万人くらいいるらしいが、そんなにたくさんの人間がいったいどこにいるのかわからないくらいすべてが平べったく広がり、まだ人工的な手が加えられていない森林地帯がどこまでもつづいている。
ノートンは、そういう土地に「こんなものをおったてるような身分になるとは夢にも思わなんだ」というような大きな家を建てた。
いまいるところはノートンが生まれ育った町ではない。ノースウエストに引っ越してきたのはプロレスの世界に入ってからだ。ドン・オーエン・プロモーションのリングに上がるために、ピックアップ・トラックに荷物を載せて、2年まえにホームタウンのミネソタ州ミネアポリスからオレゴン州ポートランドにやって来た。
プロレスがどんなビジネスなのかまだよくわからなかったが、とにかく毎日、試合ができる環境を自分でこしらえた。フルタイムでプロレスをやるようになってすぐにわかったことは、この仕事では一流にならないとまったくお金をとれないという現実だった。
友だちも家族も知り合いもひとりもいない町で、1日50ドルのファイトマネーをもらう生活がつづいた。ミネアポリスで肉体労働をしていたころのほうがよっぽどいいお金を稼いでいた。「こりぁあ、とんでもねえビジネスだ」と何度もつぶやいた。
新日本プロレスのレギュラー外国人選手になってスーパースターへの足がかりができると、ノートンはいったんポートランドのアパートメントを引き払いミネアポリスへ帰った。1日50ドルのバンプは卒業した。
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