「いい人なんてどこにいるんだよ?」と毒づいたホーク――フミ斎藤のプロレス読本#024【ロード・ウォリアーズ編9】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
「ファッキン・ビッチFucking bitch!」
「カントCunt!」
「ワラ・ホアーWhat a whore!」
思いつく限りの罵詈雑言を並べて、ホークが鼻の穴をふくらませた。仲よくしている女の子とケンカをしたらしい。
ガールフレンドといえばガールフレンドなのかもしれないが、どうもオフィシャルな彼女ではなさそうだ。
だいたい、“恋人認定証”をつくってしまうと、大ごとにしなくてもいいようなささいなことが哲学上の大問題に発展したりしかねないし、なんの気なしに口にしたことで、けっこうわずらわしい事務処理を背負わされたりする。
ホークの機嫌の悪さからみて、新しいガールフレンドとは知り合ってからごく数週間といったところだろう。
ファッキン・ビッチくらいならまだしも、カントとホアーはまずい。アメリカだったら、職場で使ったら解雇、女性に対して使ったら裁判沙汰になってもおかしくない単語である。
彼女のことがまだよくわからなかったり、どこかに迷いや疑いがあるから、ひょっとしたらそのうち大切な人になるかもしれない相手を口汚く非難してしまったりすることがある。
ホークは、たまたまそこにいた女性と前後の見境なくすぐに近い関係になったりするタイプではない。プロレスラーの標準値から判断しても、どちらかといえば堅ブツに近い。バツイチになってから2年が過ぎたが、ステディなガールフレンドは見つかっていない。
とにかく、別れたカミさんにはひどいめにあった。ツアーに出ているあいだに新しい彼氏をつくられ、離婚裁判では家も車も取られた。
でも、ホークはサバサバしていた。前夫人の匂いのついたものはきれいさっぱり手放してよかった。お金で買えるモノだったら、稼いで買いなおす自信はあった。
けっきょく、結婚していたころ住んでいたところよりも大きな家をまた買ったし、まえから欲しかったハーレーも手に入れた。WWEをやめたおかげでファミリーと過ごす時間もつくれるようになった。
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