更新日:2020年09月08日 16:26
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「毎日会社に出勤のほうがヤバいウイルス」作家・燃え殻が新作で目指したもの

―[燃え殻]―
CF燃え殻

撮影/福本邦洋

 作家・燃え殻がSPA!本誌で連載中の「すべて忘れてしまうから」が一冊の単行本になった。そもそも、テレビの美術制作会社の社員として長年働くなかで、仕事の日報のつもりで始めたツイッターが注目されたのがすべての始まりだった。その縁で知り合った作家や編集者から小説を書くよう勧められ、初めて書いた作品が『ボクたちはみんな大人になれなかった』。新人としては異例のベストセラーになった’17年夏から3年を経て、待望の2作目となる本作が誕生するまでの物語を聞いた。

異色のベストセラー作家が新作で目指したのは、日常に寄り添う解毒剤

「この連載の話は、一回断ったんです。本業がすごく忙しい時期で、週刊連載は無理だろうと思って。そしたら『とりあえず何か一本書いてください』と言われて、それで書いたのが、本の『はじめに』の、オーケンさん(大槻ケンヂ)とのエピソードで。その原稿を渡した週に、僕、入院しちゃったんですよ。それで『やっぱり週刊連載は無理です、これから大腸検査で肛門にカメラを入れられるんです。だから書けません』って言ったら、『いや、肛門にカメラを入れられる話を書けばいいじゃないですか』と言われて(笑)」  半ばなし崩し的に始まったこの連載だが、一貫して描かれるのは、生きていくことのままならなさや無力感、そしてそれらと日々いかに向き合っていくかという切実なテーマだ。叙情性とユーモアの絶妙なバランスによって成り立つ、燃え殻ならではのトーンが読む者の心を惹きつける。 「過去にガーッと遡って断片的な記憶を多く書いているんですが、そうすることで『ああ、このころも悩んでいたんだ。じゃあ今の悩みも、そのうち賞味期限が切れて大丈夫になるかもしれない、それなら生きてみようか』と思えるんです。そういうことしか書けないし、興味がない。自分のなだめ方を、それしか知らないのかもしれません」  書く仕事を始めるまでは、ただただ毎日を苦しい苦しいと言いながら美術制作の仕事をして、新規事業を立ち上げて……という日々を送っていたが、文章を書き始めてから変化が訪れた。 「どんどん苦しみが増していく、でもこの苦しみが人生なんだな、くらいに思っていたんだけど……ものを書くって、整理整頓しなきゃいけないじゃないですか。それが自分の精神衛生上、すごくよかった。昔、編集者に『書いたらきっとラクになりますよ』って言われて。ラクにはならないからそれはウソでしたけど、ある程度、整理はつくようになりました」
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わかりやすいものは、どこか極端だ
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燃え殻『すべて忘れてしまうから』』(扶桑社刊)

『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーとなった燃え殻による待望の第2作。ふとした瞬間におとずれる、もう戻れない日々との再会。ときに狼狽え、ときに心揺さぶられながら、すべて忘れてしまう日常にささやかな抵抗を試みる回顧録

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