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『ミステリと言う勿れ』菅田将暉の言葉はなぜ刺さる? ドラマが提示する“正しい生き方”

総合視聴率、冬ドラマで断トツ

ミステリと言う勿れ

公式ホームページより

 1月期の連続ドラマが終盤に入った。その中の1つであるフジテレビ『ミステリと言う勿れ』(月曜午後9時)が、めざましい成功を収めた。  2月28日放送の第8話が終了した時点での全話平均の世帯視聴率は約12.1%(同個人約7.6%)。1月期連ドラの中では『DCU』(TBS)に次ぐ。録画分も合わせた総合世帯視聴率の2月17日までの最新データは平均約25.0%で、断トツのトップだ(いずれもビデオリサーチ調べ、関東地区)。  なぜ、成功したのか。ドラマづくりにおいて大切なものは「1に本(脚本)」「2に役者」「3に演出」というのが国内外を問わず古くからの大原則だが、その3つとも良かったからにほかならない。まず漫画家・田村由美さんが描いた原作は文句なしに面白い。2つのことを考えさせる。

ミステリと並行する“正しい生き方”

 1つ目はミステリなので「真犯人」だが、それより大きい2つ目が「正しい生き方」。作者のメッセージを押し付けるのではなく、どう生きるのが正しいのかを考えるきっかけを提示している。この原作を採用したことで斬新なドラマになった。  例えば、主人公で謎解き役の大学生・久能整(菅田将暉)がバスジャックに巻き込まれた2話でのこと。犯人の1人である犬堂乙矢(阿部亮平)が、拉致した乗客たちに殺人を犯してはいけない理由を尋ねた。コンビニのバイト・淡路一平(森永悠希)は「捕まるから」と答えた。ほかの乗客もそれぞれの考えを口にした。  久能は「いけないってことはないんです」と答え、こう続けた。 「ただ、秩序ある平和で安定した社会をつくるために便宜上、そうなっているだけです。だって人殺しなんて、ひとたび戦争になればOKってことになるんですよ」(久能)  このセリフを耳にして、「殺人は許されるんだ」と、短絡的に思う人はいないだろう。人によって深度には差があるだろうが、それぞれが普段は思う機会がまずない「なぜ殺人はいけないのか」を考える契機になったはずだ。  その後、一平が子供のころにいじめられていながら、逃げることが許されなかったと振り返ると、久能は「どうして、いじめられているほうが逃げなきゃならないのでしょう」と不思議そうに話す。 「欧米の一部では、いじめてるほうを病んでると判断するそうです。いじめなきゃいられないほど病んでる。だから隔離してカウンセリングを受けさせて、癒やすべきだと考えている」(久能)  日本ではあまり知られていないが、確かにフランスなどではそうらしい。いじめ対策をあらためて考える動機付けになったはずだ。
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家族、同僚…人間関係について掘り下げる
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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